親の介護が始まると、分からないことや不安なことが次々と出てきます。子のなかには「なんとかしなければ」と頑張ってしまい、「介護に疲れた」「先が見えない」と感じる方も多くおられます。まずは、自分自身がどのくらい介護に関われるのかを見つめてみませんか。

第3回目のテーマは、「自分について知っておくべきこと」です。筆者が仕事、子育て、介護(遠距離介護4年・在宅介護8年)のトリプルワークを行う中で、親も自分も自滅しないための介護について考えてきました。親の介護が必要になったら、介護中心の生活になってしまい、自分の生活が維持できなくなるのでは…と不安な方も多いのではないでしょうか。また実際に介護が始まると、自分の生活を優先することに、罪悪感を持つことがあるかもしれません。

今回は、そんな時に役立つ、「自分について知っておくべきこと」をご紹介します。親の介護と自分の生活を見つめ直すきっかけとしてみてください。

親を介護する上で大切な要素とは

「皆さんにとって、介護とは何ですか?」と尋ねると、こんな声が聞こえてきそうです。

「子の任務、育ててもらった恩」
「自分の生活に影響が出るのではないか…という怖さ」

やりたいけど、やりたくない、そんな気持ちの矛盾を思い浮かべたかもしれません。

「親との時間、なるべく一緒に過ごしたい」
「仕事と介護のやりくりができるのか不安」

取りたいけど、取れない、そんな時間の限界を思い浮かべたかもしれません。

「介護が始まっても、それなりの生活をさせてあげたいけれど親の資産は…」
「わが子の学費も必要、あがる税金、あがらない給料、どうしよう…」

出したいけど、出せない、そんなお金の現実を思い浮かべたかもしれません。

介護の始まりは身体の衰弱、介護の終わりは死という、避けたいけど、避けられない現実を私たちは認識しています。では、介護に対して、どのように向き合えば良いのでしょうか。

親の介護者として、自分の気持ち・時間・お金と向き合う

在宅介護と施設介護の例で、簡単に説明しましょう。
・親の介護は自らやりたい(自分の気持ちを優先したい)ならば、時間を使って在宅介護を検討しましょう。
・仕事があり親の介護ができない(自分の時間を優先したい)ならば、お金を使って介護のプロにお願いすることを検討しましょう。

気持ち・時間・お金を全て完璧に賄うことは容易ではありません。何かを優先するのなら、他を少し譲る、諦める必要が出てきます。優先する項目は、個人の考え・体調や周りの環境によってその都度、変わるものであり、正解があるものでもありません。

私は、在宅介護を「介護の内製化」、介護サービスの利用を「外注化」と考えています。職場を想像してください。あるプロジェクトがあります。時間に余裕があるのなら、社員が対応し、外注費を抑えることも可能です。時間がとれないのなら、その業務に長けている会社に費用がかかるけれど一部外注をする、条件によっては全て外注ということも考えられます。介護も仕事と同じように考えられます。できるところは自分でやり、できないところは他人に任せる。そのためには介護費用をどのくらいかけられるのか、使える予算の把握も大切になってきます。

介護に無理は禁物です。何かを譲り、諦めることも受け入れながら、70%くらいを意識して力の抜き方を考えましょう。100%を求めると介護者が燃え尽きてしまいます。介護者が幸せでなければ介護される人も幸せになれないと思います。

国や勤務先の介護支援制度を確認する

介護離職すると自分が経済的に立ちいかなくなる可能性が出てきます。また、仕事を辞めて介護に専念しても親の状態が好転するとも限りません。国や会社の介護支援制度をうまく使って、介護と仕事そして自分の生活の両立を図ることが大切です。「介護休暇」「介護休業(※1)」「介護休業給付金」「短時間勤務制度」などがありますので、国やご自身の勤務先の制度の内容を確認してみましょう。

私は必ずしも介護離職してはいけないとは思っていません。なぜならば、仕事を辞めて自身が介護に専念するか否かは、気持ち・時間・お金という環境が絡み合っているからです。ですが、辞めたくないのに離職せざるを得ないと考えている方には、「辞めないで両立する方法を模索してはいかがでしょうか」とお伝えしたいです。

仕事を辞めて介護に専念しなければならない理由を考える

他人思考(親が原因)と自分思考(自分が決定)があります。前者は親に育ててもらった恩があるから、子には面倒をみる責任があるからなど、「親のために辞めるのだ」という考えです。後者は、自分が仕事よりも親との時間を大切にしたいなど、「自分の意思で決定した」という考えです。前者の場合、もしかしたら心のどこかで自分が仕事を辞めたいという気持ちが少なからずあるかもしれません。その場合は考えを改めた方が良いと思います。自分のためにわが子が仕事を辞めるのを喜ぶ親もいないでしょう。同じ離職の道を選んだとしても、他人思考と比べて自分思考は自分の気持ちに向き合って納得している分、たとえ困難にぶつかっても「自分で決めたことだから」と前向きになれるのです。

「自分でできること」「支援を受けること」を考える

下記の図表は、主な介護者の介護時間を要介護度別に表したものです。「要支援1」から「要介護2」までは「必要なときに手をかす程度」が多いですが、「要介護3」以上では「ほとんど終日」が最も多くなっています。自分が介護にどのくらい時間が割けるかを考える時の参考にしてみてください。在宅介護は時間的負担が多くなります。要介護度が高くなったら施設介護の検討に入る段階かもしれません。

【図表】要介護度別にみた同居の主な介護者の介護時間の構成割合
出所:厚生労働省「2019 年 国民生活基礎調査の概況」

介護は協力者が多いほうが安心です。兄弟姉妹がいれば分担でき、それぞれの負担も軽くなります。公的な介護保険サービスの他、見守りなどニーズに応じた民間サービスも増えています。必要に応じて活用することで、介護を軽減することができ、生活の維持に繋がります。

介護人材の不足や家族に支えてもらえない単身高齢者が増加していることは大きな社会問題となっています。このような現状から、国主体の介護サービスだけではなく、地域の力を活用した自治体主催の「地域包括ケアシステム(※2)」の取り組みが進んでいます。地域における「住まい」「医療」「介護」「予防」「生活支援」の5つのサービスを一体的に提供できるケア体制を構築しようというもので、交流サロンや声かけ(見守り)もこの取り組みの1つです。

地域包括支援センター(※3)では、高齢になっても住み慣れた自宅や地域で安心してその人らしい生活を続けていけるよう専門職員が「チーム」となって高齢者を支えています。身近な相談窓口として活用してみてはいかがでしょうか。

(※1)厚生労働省「介護休業について」
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/closed/index.html

(※2)厚生労働省「地域包括ケアシステム」
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/dl/link1-4.pdf

(※3)厚生労働省「地域包括支援センターについて」
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000756893.pdf