対円で「割高」の外貨とは?

最近にかけて円全面安が広がる中で、円に対しては多くの外貨が割高を拡大する動きとなっている。そこで今回は、5年MA(移動平均線)かい離率を使って、対円での主な外貨の割高リスクを検証してみる。

まずは米ドル/円。米ドル/円の5年MAは足元で110円程度なので、それを2割上回った水準は132円程度。一時131円台まで米ドル高となったことからすると、5年MAを2割近く上回ったことになるわけなので、既にかなり米ドル割高懸念は高まっていると言えそうだ(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円の5年MAかい離率 (1990年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

ただこれまでに、米ドルは5年MAを3割以上も上回る割高拡大に向かったこともあった。米利上げがまだまだ続く見通しで、それに連れた米ドル高が続くなら、米ドルは対円で一段と割高拡大に向かう可能性はありそうだ。

次はユーロ/円について。ユーロ/円の5年MAは足元で127円程度。このため、それを2割上回った水準は152円程度になる。これまでのところのユーロの対円高値は140円程度なので、まだ5年MAを1割上回った程度にとどまっている(図表2参照)。その意味では、対円でのユーロ割高懸念はそれほど高いということではなさそうだ。

【図表2】ユーロ/円の5年MAかい離率 (1990年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

同じ欧州通貨でも、英ポンドは、ユーロよりは対円での割高懸念が僅かに強い可能性がある。英ポンド/円の5年MAは足元145円で、それを2割上回った水準は174円。ここまでに英ポンド/円は一時168円まで上昇し、5年MAを2割近く上回った(図表3参照)。以上のように、5年MAとの関係で見る限り、同じ欧州通貨でも、対円で見た場合、ユーロより英ポンドの割高懸念が強くなった可能性がありそうだ。

【図表3】英ポンド/円の5年MAかい離率 (1990年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

ところで、そんな欧州通貨以上に、オセアニア通貨は、対円での割高懸念が強まった可能性がある。豪ドル/円、NZドル/円の5年MAを2割上回った水準は、足元ではそれぞれ96円、90円。これに対して、豪ドル/円は95円まで、そしてNZドル/円も87円まで上昇し、5年MAを2割近く上回った(図表4、5参照)。

【図表4】豪ドル/円の5年MAかい離率 (1990年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成
【図表5】NZドル/円の5年MAかい離率 (1990年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

経験的に、5年MAを2割以上上回るかが、中長期的な割高懸念の大きな目安と位置付けた場合、オセアニア通貨は、総じて欧州通貨より対円での中長期的な割高懸念が高くなった可能性がありそうだ。そして、そんなオセアニア通貨以上に、対円での中長期的な割高懸念が高まったのは南アフリカランドなど新興国通貨だろう。

その前に確認する必要があるのは、新興国通貨は、これまで見てきた米ドル、欧州通貨、オセアニア通貨といった「先進国通貨」と5年MAとの関係が大きく異なるということ。「先進国通貨」では、対円で5年MAを2割以上上回ると中長期的な割高警戒域としてきたが、新興国通貨の場合は、経験的にはそもそも5年MAが割高警戒水準となってきた。

そういった観点で見ると、ここまでに一時5年MAを1割も上回った南アフリカランドは、これまで見てきた「先進国通貨」以上に、中長期的な対円での割高リスクが高まった可能性がありそうだ(図表6参照)。

【図表6】南アフリカランド/円の5年MAかい離率 (1990年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

まとめ

円全面安の展開について、日本は多くの国が利上げに転換する中、金利上昇を容認できないという金融政策の方向性の違いで説明されることが増えている。そういった中で、円に対して多くの通貨が上昇、さらに割高を拡大する動きとなっているが、そんな割高の程度には自ずと違いが生まれてきている。今回は、それについて5年MAとの関係を前提として確認した。