ロシアによるウクライナ侵攻を受け、先行き不透明な状況が続いています。M&A(合併・買収)も激減し、個別企業の動きに着目して株式を売買する「イベントドリブン型」の投資家にも逆風が吹いています。

しかし、アクティビスト(物言う株主)は企業に攻勢をかけています。この記事では、2022年になってアクティビストが活動を活発化している状況について解説します。

2022年のM&A件数は急減

3月16日付の日本経済新聞によると「世界的にM&Aの件数は減少している。金融情報会社リフィニティブのデータを基に週次ベースで集計したところ、3月7日の週は世界で576件。前年同週の半数以下だ。2021年に週次案件数が1000件を割り込んだのはわずか4回だけで、それも900件台後半だった」とのことです。

また、同記事では、2022年は投資ファンドにとって厳しい年になるという見通しについても書かれています。米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げに踏み切り、買収資金の調達環境が悪化するためです。これに、ロシアのウクライナ侵攻が重なりました。資源を始めとするコスト高や同地域での事業展開の行方などM&Aを決断するには不透明な事象が降ってわいたこともM&A件数の減少の背景として伝えられています。

消費財メーカーがアクティビストのターゲットに

それでも、世界の大企業に対して、アクティビスト(物言う株主)は攻勢をかけています。低収益をやり玉にあげ、企業に抜本的な構造改革を迫っています。さらに、配当の増額など株主還元を求める従来の手法に加え、収益性の改善策を提示する「コンサルティング」の手法が主流になりつつあり、特に、経営改善の余地が大きい消費財メーカーが狙われています。

2月28日付の日本経済新聞によると「いまやアクティビストの投資対象にならない上場企業は存在しないが、とりわけ消費財は標的になりやすい。アクティビストの投資先の約2割が消費財メーカーというデータもある。理由はいくつかあるが、まずキャッシュフローの計算がしやすいのが一点。さらに、事業戦略の優劣によって企業間の競争力の格差が生まれる傾向が強い。裏を返せば、聖域なき構造改革を通じた業績回復のシナリオが描きやすい業種ともいえる」とのことです。

アクティビストの日本企業への新規投資も活発に

英投資ファンドのシルチェスター・インターナショナル・インベスターズ(以下、シルチェスター)は、2022年11月にサワイグループホールディングス(4887)への出資を明らかにした後、この3ヶ月間で森永製菓(2201)や清水建設(1803)、大成建設(1801)、住友ゴム工業(5110)の大量保有報告書を相次いで提出しました。
 
シルチェスターは、米国の投資銀行モルガン・スタンレー出身スティーブン・バット氏によって1994年にロンドンで設立され、2018年末の運用資産は約4.4兆円、うち約1兆円が日本株に投資されています。

世界中の企業に投資しており、財務分析に基づいて割安な銘柄を選び、長期的に保有するバリュー投資家として知られています。日本企業への投資先は、地方銀行、不動産、建設、情報通信など多岐に渡ります。

日本株に投資するアクティビストとしては、エフィッシモ・キャピタル・マネジメントに次ぐ規模であり、市場から注目されているアクティビストの1つです。

シルチェスターは、アクティビストと呼ばれることを好まない穏健派と言われ、投資先にあからさまな要求をすることはほとんどありません。しかし、イベントドリブン投資という点では、鋭い観察眼を持っています。

香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントも、過去1年間の大量保有報告書6件のうち4件を過去3ヶ月以内に提出しており、マネックスグループ(8698)やダイビル(8806)、インフォコム(4348)などに投資しています。市場環境が不安定な中でもアクティビストによる新規投資はむしろ活発化しているようです。

バリューアクトとセブン&アイ・ホールディングスの攻防に注目

日本のセブン&アイ・ホールディングスに投資するバリューアクト・キャピタル・マネジメント(以下、バリューアクト)は、2月8日に経営改善を求める提言を発表しました。日本語版の提言は75ページにも及んでいます。株式売却を進めているそごう・西武に加え、同社の祖業であるイトーヨーカ堂の売却・分割を求めました。

バリューアクトは、アイカーン氏などに比べ、「忍耐強い」株主として知られています。水面下で経営陣と議論を重ね、事業改革を促す戦略をとっているからです。ただ、バリューアクトはセブン&アイHDについて、「投資家の批判を避けるための表面的な対話をしている」という強い表現で、セブン&アイHDのコーポレートガバナンスの不備を指摘。経営陣と対話を重ねながらも、思うように進展しないことに不満を表明しています。

バリューアクトは、妥協の余地がないとして株主提案書を提出する可能性が高いと考えられます。5月下旬のセブン&アイHDの定時株主総会に向けて、緊張感が高まるのではないかと思います。