円・中国元の直接取引がこの6月にも始まる、というニュースが大きく取り上げられていますね。某新聞では「直接取引できるようになれば、為替変動のリスク低下や両替手数料削減などの利点がある」と報道されています。

現在、日中間の貿易取引の9割以上が米ドル建てで、貿易に伴う(「実需」と呼びます)決済においては円⇒米ドル、米ドル⇒中国元という2ステップを踏む必要があり、確かに為替(両替)手数料は2回かかるようになっています。
しかも米ドル⇒中国元の取引は東京では行えず(邦銀の場合、香港支店で行う)、時間的、地理的リスクとコストがかかっています。
その2回の両替が必ずしも同タイミングで行われるわけではないという意味では、一時的に米ドルを保有することによる為替変動のリスクを抱えているとも言えます。

でも、この報道を上記のような意味ではなく、「直接取引=為替変動リスク低下」と理解し、手放しで喜んでしまうのは危険のように感じます。
そもそもの為替レートの成り立ちを考えれば、米ドルを介さなければ、日本円から中国元に直接交換できれば為替リスクが減るということはないはずだからです。

米ドルは為替市場においての基軸通貨であり、たとえ中国元/円の為替レートが銀行で直接提示されるようになったとしても、そのレートは米ドル/円と米ドル/中国元の合成レートであり、米ドルの値動きの影響は確実に受けるものです。

具体的には下記のような計算が隠れています。
米ドル/円 ÷ 米ドル/中国元 = 中国元/円

もしこうした計算上得られるレートと銀行で提示されるレートに乖離がある場合は、市場においてすぐさま「裁定取引」(米ドル/円、米ドル/中国元、中国元/円をそれぞれ取引することで、その価格差を利用して儲ける取引)が行われ、価格差は是正されるはずです。

中国元の為替市場が小さいうえ、流通量が少ないため値動きが大きくなりやすい傾向があると言えますから、為替取引だけを見れば裁定取引のチャンスは増えるかもしれません。といっても、そもそも中国元は規制通貨ですから、そうした市場取引が十分に機能するかどうか、認められるのかどうかはわかりません。

実需取引だけを考えれば、中国元/円の為替レートが提示されることが完全に米ドルの為替リスクをなくすことではありませんし、規制の多い中国元を直接取引することが本当に貿易促進につながるのかは疑問が残ります。

廣澤 知子

ファイナンシャル・プランナー