3月「怒涛の円安」の振り返り

3月の米ドル/円は一気に約10円もの大幅な上昇となり、一時は2015年以来の125円を記録しました。米ドル/円は2022年に入り2ヶ月以上も114~116円中心の小動きが続いていました。その小動きが米ドル「上放れ」となったことで勢いづいたのでしょう。

それにしても、米ドル/円の急騰でありながら、日米金利差とほぼ重なり合っての推移となっていました(図表1参照)。その意味では、単に長く続いた小動きの反動で勢いづいただけでなく、基本的には米金利の上昇が続き、日米金利差米ドル優位が拡大したことに追随した結果でもあったと言えるでしょう。

【図表1】米ドル/円と日米10年債利回り差(2021年10月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

ところで、このように米ドル/円が大きく上昇する中で、118.6円程度といった2016年の「トランプ・ラリー」と呼ばれた米ドル高大相場で記録した米ドル高値を更新しました(図表2参照)。これを受けて、チャート的には、その前の重要な米ドル高値、2015年に記録した125円を目指す流れとなり、実際の米ドル/円の値動きは、チャートの基本通りの展開だったとも言えそうです。

【図表2】米ドル/円の月足チャート(2015年~)
出所:マネックストレーダーFX

では、3月の米ドル/円急騰を受けて、4月はさらに米ドル高・円安が進むのでしょうか。まずテクニカルな観点からすると、さすがに1ヶ月で10円もの「怒涛の米ドル高・円安」となったこともあり、ひとまず一服する可能性もありそうです。

3月の米ドル/円の月足チャートを見ると、3円以上といった比較的長い「上ヒゲ」となりました。月足チャートの「ヒゲ」とは、月中の高安値と月末引け値の差のことですが、経験的に長い「ヒゲ」を残した場合、その高安値の更新には数ヶ月以上といった具合に長い時間がかかる傾向がありました。

例えば、いわゆる「コロナ・ショック」が起きた2020年3月は、当初米ドル急落となったものの、その後は一転して米ドル急反騰となった結果、上下に長い「ヒゲ」を残すところとなりました(図表2参照)。この2020年3月に記録した米ドル安値は、その後今に至るまで更新されず、米ドル高値の更新に1年以上も要するところとなったのです。

以上からすると、3月に記録した125円近辺の米ドル高値を大きく超えていくまでには時間がかかる可能性もありそうです。そうだとしたら、逆に米ドル/円の下落リスクが拡大する可能性もあるのでしょうか。

米ドル/円の90日MA(移動平均線)かい離率は、一時プラス7%以上に拡大しました(図表3参照)。これは、短期的な米ドル「上がり過ぎ」懸念が強くなってきた可能性を示しています。その意味では、短期的な「上がり過ぎ」の修正で米ドルが下落に向かう可能性はあるでしょう。

【図表3】米ドル/円の90日MAかい離率(2000年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

ちなみに、米ドル/円が下落する場合、これまでは(1)株安に連れる(2)米金利低下などに伴う日米金利差米ドル優位縮小に連れる、といった主に2つのケースが基本でした。

ただ2月後半から、主にウクライナ危機の拡大を受けて株安が拡大した局面では、米ドル/円の下落は限られるところとなりました(図表4参照)。そもそもこの「株安でも円高にならない」ことを確認したことが、3月に円安が急拡大に向かった一因だったのではないかと、私は考えています。

【図表4】米ドル/円とNYダウ(2021年10月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

それはともかく、株安でも大きく円高に向かわない状況がこの先も基本的に続くなら、米ドル安・円高リスクを左右するのは米金利低下などによる日米金利差米ドル優位縮小が主な手掛かりになるでしょう。

このうち米金利については、かなり短期的な「上がり過ぎ」懸念の強い状況が続いています。例えば、米10年債利回りの90日MAかい離率は、一時プラス40%まで拡大しました(図表5参照)。同かい離率がこんなふうにプラス40%程度まで拡大したのは、2010年以降でも3~4回しかありませんでした。その意味では、米金利はかなり短期的な「上がり過ぎ」懸念が強く、その修正で金利低下に向かう可能性はあるでしょう。

【図表5】米10年債利回りの90日MAかい離率(2010年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

ただ、米国ではインフレ対策から金融政策は引き締め方向に強く傾斜しており、その中でも4月1日に発表された米3月の雇用統計が総じて予想より良い結果となるなど、なお景気回復が続いていると見られる中では、米金利の低下も基本的には「上がり過ぎ」の反動など限定的な動きにとどまりそうです。

以上からすると、4月の米ドル/円は、米ドルが上げ渋る可能性があるものの、その一方で下落リスクも限られると考えられるため、予想レンジは120~125円中心となるでしょう。