ストラテジストの仕事の楽なところは、以前に書いたものを引用して仕事になることである。
米国の長短金利の逆転(逆イールド)が話題を集めている。景気後退のシグナルだというのだ。これについては、ちょうど3年前に<「逆イールドで景気後退」は思考停止の典型>というレポートを書いている。その書き出しでも「同じことを何度も繰り返して述べるのは非常に憚られるが仕方ない。読者も、またか、と辟易されるかもしれないが我慢してお付き合いください」と述べているので、よほど同じことしか言っていないのだろう(苦笑)。
米国の国債市場で3カ月物の利回りが、10年債の利回りを上回る長短金利の逆転が起きた。これが先行きの景気後退を懸念させ、市場の動揺が高まっている。過去の例では長短金利の逆転=逆イールドが起きるとその後、景気後退が訪れてきた。しかし、逆イールドになったから景気が後退したわけではない。長短金利の逆転で銀行の収益が低下し景気の下押し圧力になる面は確かに否めない。しかし、逆イールドそのものは景気後退の直接的な原因ではない。逆イールドは景気拡大期終盤にしばしば観察される現象に過ぎない。
2019年3月29日 ストラテジーレポート「『逆イールドで景気後退』は思考停止の典型」より
言いたいことは、逆イールドと景気の間には相関関係はあるが因果関係はないということだ。3年前のレポートでも書いたが、ポイントは「逆イールドが景気後退を招くわけではない。逆イールドの状況が発生しているにもかかわらずFRBが利上げをやめないことが要因」である。
ここで今回、我々が考慮すべきは、利上げが始まる前からマーケットは相当織り込みが進んだということだ。通常は複数回の利上げのあとで逆イールドになるのに、今回はまだ1回しか利上げしていないのに逆イールドになっている。こう考えると、なおさら過去のパターンは当てはめにくい。さらにポイントはFEDの利上げがオーバーキルとなるかどうかだが、これはインフレ次第という点だ。インフレについては、3月11日のレポートで述べた通り賃金インフレはピークアウトの兆しが出ている。今晩の雇用統計で再確認したい。
エネルギー・食品は値上がりが続くが、それらを除くコアのインフレは、やはり鈍化している。PCEコア・デフレーターは前月比0.4%上昇だが、前月の0.5%上昇より鈍化している。前年比では5.4%上昇だったが、市場予想の5.5%上昇を下回った。まあ、見方次第だがインフレは落ち着いてくるだろうというのが僕の見方だ。
ただ、相変わらず、世間(マスコミ)はネガティブ思考である。例えば今朝の日銀短観を報じた新聞の記事はこうだ。
日銀が発表した3月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は3ポイント悪化しプラス14となった。
2022年4月1日 日本経済新聞記事より
悪いところをまず、もってくる。ただ、市場の予想は12だったので、それほどの悪化ではない。ウクライナ危機でのコモディティ価格上昇などを考えれば上出来だろう。2021年度下期のドル円の想定レートは111.93円であり、足元のレートはそれを10円も上回る円安だ。この先の業績のサポートになるだろう。