ある日突然、自分の親が要介護になる可能性があることをご存じでしょうか。要介護者の約3割は脳血管疾患や骨折・転倒が原因だそうです。親が介護費用の準備や支払いへの対策がしきれないまま要介護になってしまう場合もあります。実際、予期せず親の介護に関連する費用負担が発生し、子世代の老後のための資金準備の計画が崩れて困っている人もいます。介護は親だけの問題と思うのではなく、自分も一緒に親の介護に対する準備や対策をしていきましょう。

公的介護保険の基本は「現物支給」

親に介護が必要になったときに、まず検討するのが公的介護保険の利用でしょう。そのため、公的介護保険制度の内容について確認しておきましょう。

市区町村から要支援または要介護認定を受ける必要があります。介護が必要だと認定されると、公的介護保険を使って要支援・要介護度に応じた介護サービスを利用することができます。例えば、ホームヘルパーに自宅に来てもらい、入浴、排せつ、食事などの身体介護や調理、洗濯、掃除等の生活援助を行ってもらうことができます。他にも、日帰りで施設に通い、食事や入浴などの支援や心身の機能を維持・向上するための機能訓練、口腔機能向上サービスを提供するデイサービス、宿泊を伴うショートステイなどもあります。

このように、公的介護保険からの給付は「介護サービスを受ける」という現物支給が基本です。加入している公的介護保険から現金支給されるものではありません。

また、現物支給として介護サービスを受ける場合も、介護サービスの提供費用の1~3割(所得等に応じる)は自己負担になっているため金銭負担が発生します。

なお、介護サービスは、要支援・要介護度ごとに介護保険から給付される1ヶ月あたりの介護サービス利用上限額が設けられています。上限額の範囲内なら1~3割の自己負担となりますが、上限を超えてサービスを利用した場合は、超えた分を本人が負担しなければなりません。

ただ、この自己負担額には上限が設けられており、一定額を超えると払い戻しを受けられる「高額介護サービス費」という制度もあります。

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公的介護保険の適応外でかかる費用もある

もう1つ公的介護保険に関して知っておきたいことがあります。介護サービスを利用したときに公的介護保険が使えない場合もあるということです。例えば、介護施設を利用する場合の食費・居住費(滞在費)・日常生活費などは公的介護保険が使えず、これらの費用は全額自己負担となります。介護施設に入居する場合だけでなく、デイサービスやショートステイなど施設に通所する場合も同様です。

例えば、ショートステイに通ってリハビリ、食事、入浴、排泄の介助やレクリエーションなどのサービスを受けたとしましょう。この場合、本人負担は基本的に介護サービス費用の1~3割(所得等に応じる)ですが、食事代(原材料費+調理費相当)および居住費(室料+光熱費相当)は別途、全額自分で払わなければなりません。レクリエーションとしてクラブ活動に参加した場合は、クラブ活動に要する材料費等(お花、絵画等)を日常生活費として自己負担するようになります。

子どもが親の介護費用を負担せざるを得ない場合も

冒頭でも述べたように、脳血管疾患や骨折・転倒などが原因で介護が必要になる人もいます。親自身も予測していない事態で、資産管理面での対策ができていないうちに介護費用が発生すると、子どもが代わりに負担せざるを得ないでしょう。

厚生労働省の「仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査」(平成24年度)によると、要介護者の親を持つ人のうち、介護費用を「負担していない」と回答した人は男性54%、女性59.1%となっており、4割以上の人が何らかの介護費用を負担していることがうかがえます。介護施設・病院利用料や介護用品購入費、サービス利用料、生活費、手助・介護のための交通費など、費用負担も内容も多岐にわたっています。介護費用と聞くと、介護施設やサービス利用、物品購入(レンタル)にかかる費用ばかりをイメージしがちですが、その他の付随費用もあります。

今回紹介したように、公的介護保険を使うことで介護費用の負担を抑えることはできます。それでも、要介護者の状態や受けるサービス、所得・資産状況等、様々な要因で金銭的な負担が大きくなることも考えられます。親の介護費用の負担によって子世代ご自身の生活や資産形成に金銭的な支障が生じてしまう事態を避けるためにも、介護の方針や費用の対応方法について親子で話し合い、事前の準備をしていただければと思います。