日米金利差急拡大で円一段安?

米国の長期金利、10年債利回りが一時2%を上回るなど、世界的に金利上昇が広がっています。こういった中で、日銀は2月10日、10年債利回り0.25%で無制限に購入するいわゆる指し値オペを行うと発表し、長期金利上昇を抑制する姿勢を確認しました。

これにより、日本と米国などとの長期金利差が拡大し、円一段安をもたらすとの見方があります。確かに円高要因ということではないですが、一方で長期金利差の拡大に伴う過度な円安予想は少し違うのではないかと個人的には感じています。

そう考える理由の1つは、米国などの長期金利上昇がこの先も続いた場合、日銀の政策により日本の長期金利だけ上昇を抑制することが果たしてできるかという疑問です。図表1は、2021年からの日米の10年債利回りの推移です。このように見ると、両者は水準も値幅も大きな差があります。

【図表1】日米の10年債利回りの推移 (2021年1月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

ただ、両者を重ねてみると、プライス・パターンには高い相関性が続いてきたことがわかるでしょう(図表2参照)。水準が大きく異なることなどから気付きにくいでしょうが、日本の長期金利は、米国の長期金利に連動するのが基本となってきました。

【図表2】日米の10年債利回りの推移その2 (2021年1月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

そしてそれは日本だけでなく、独など先進国の長期金利におおむね共通して指摘できることです。こういったことをもたらしているのは、グローバリーゼーションの時代にあって、先進国の長期金利は、「世界一の経済大国」である米国の長期金利に基本的に連動する傾向が強くなっているということではないでしょうか。

分かりやすくするために、別な言い方をすると、日本の長期金利は日本の政策や経済動向以上に、米国の長期金利で決まってきたということです。そうであるなら、日銀が長期金利の上昇抑制策を発動しても、一方で米長期金利の上昇がさらに続いた場合、果たして日本の長期金利上昇が止まるかは疑問ではないでしょうか。

私が、「日米金利差拡大=円一段安」との考え方に懐疑的な2つ目の理由は、そもそも米長期金利のさらなる上昇余地が限られるのではないかと考えている点にあります。2%まで上昇してきた米10年債利回りですが、果たしてさらに2.5%、3%といった大台を目指して一段の上昇に向かうところとなるのか。もしもそうなった場合、一方で日銀が日本の10年債利回りを0.25%以下に抑え込むことができたら、もちろん日米の金利差は大幅に拡大することになるわけですが。

図表3は、1990年以降の米10年債利回りに5年MA(移動平均線)を重ねたものです。これを見ると、米10年債利回りは5年MAを上回ると上昇が一巡するパターンが続いてきたことがわかるでしょう。さて、足元の米10年債利回りの5年MAは1.78%程度です。その意味では、米10年債利回りが2%まで上昇すると、既に5年MAを10%以上も上回った計算になります。これまでの経験則からすると、米10年債利回りは上昇のクライマックスを迎えている可能性があるのかもしれません。

【図表3】米10年債利回りと5年MA (1990年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

1990年以降で見ると、米10年債利回りの5年MAかい離率がプラス20%以上に拡大したのは一度しかありませんでした(図表4参照)。これを参考にして、今回の場合も米10年債利回りが足元で1.78%程度の5年MAを2~3割上回るまでに上昇が一巡すると考えるなら、2.1~2.3%程度までの上昇がせいぜいといった計算になります。

【図表4】米10年債利回りの5年MAかい離率 (1990年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

過度な円安予想には要注意!?

以上、主に2つテーマについて考察してきました。1つは、日銀の政策で長期金利上昇に歯止めをかけることは出来るのかということ。これに対する結論は、日本の長期金利により影響力が大きいのは日銀の政策より米長期金利であり、その意味では米長期金利次第では日銀の長期金利上昇抑制策は失敗する可能性があるということでした。

そして2つ目のテーマは、米長期金利はどこまで上昇するのかということ。これに対する結論は、過去の経験則を参考にすると、そろそろ金利上昇のクライマックスを迎えている可能性があるということでした。

以上からすると、世界的な長期金利上昇の中で、日銀の金利上昇抑制策で日米などの金利差が一段と拡大するのではなく、米金利上昇がクライマックスを迎える中で、日米などの金利差拡大も自ずと限られる見通しになる可能性があることから、この金利差の面からの過度な円安予想には注意が必要なのではないでしょうか。

米ドル/円は2021年1月の102円から最近にかけて116円で上昇しました。この中で、日米10年債利回り差米ドル優位拡大は、最大で0.9%程度にとどまっています(図表5参照)。とくに、2021年4月にかけて一気に金利差米ドル優位が0.7%程度も急拡大したものの、その後の金利差拡大は0.2%程度にとどまっています。こういった背景には、これまで見てきたように、長期金利は連動しやすく、この結果基本的に金利差拡大は限られやすいということがあったでしょう。

【図表5】米ドル/円と日米10年債利回り差 (2021年1月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

一方で、金融政策を反映する日米2年債利回り差米ドル優位は、この間の米ドル高・円安局面において、最大で1.4%も拡大しました。日米の金融政策の違いは、この2年債利回り差に反映されやすく、米ドル高・円安もこの2年債利回り差の大幅な拡大こそ手掛かりにしやすかったと考えられます(図表6参照)。

【図表6】米ドル/円と日米2年債利回り差 (2021年1月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

そんな日米2年債利回り差と米ドル/円の関係も、年明け以降はかい離が目立っています。米インフレ率の上昇が続く中で、名目金利からインフレ率を引いた実質金利の低下などから、名目金利上昇の通貨高への影響が低下している可能性があります。また、金利上昇に耐えられず株価下落リスクが目立ってきたことも、単純に「米金利上昇=米ドル買い」とならなくなっているのではないでしょうか。