暗号資産価格の変動が相変わらず激しい(図表1)。昨年11月のピークから今年1月末にかけてほぼ50%下落したが、足元では底打ちの兆しもみられる。ここからの暗号資産市場の注目点は何か。今回は、特にイーサリアムに焦点を当て、他の金融市場との連動や将来性を検証する。

暗号資産と株価の関係:正の相関が強くなっている

暗号資産のリターンは、2018年頃までは株価リターンとの相関は薄かった(図表2)。両者が同方向に動く時(図表2でグラフがゼロより上にある)と逆方向に動く時がまちまちで、安定した関係は見られなかった。このため、株式投資のリスクヘッジになると考えられていた。

ところが、2018年以降、株式と暗号資産は同方向に動く時期が徐々に増え、特に2020年以降はほぼ常に正の相関がみられるようになった(図表2のシェード部分)。足元ではビットコインもイーサリアムも、値動きの半分は株価の変動で説明できるようになっている。2020年以降、金融市場にマネーが溢れたことで、株式の機関投資家等を含む幅広い投資家層が暗号資産に向かっていったことを表していると考えられる。

 

今後の金融市場:金融政策を睨む株式市場の限界

現在、株価も暗号資産も底打ち感が見られている。米国の金融政策の正常化(引き締め)はほぼ織り込まれつつあるという見方だ。それであれば、より確立した市場である株式の買い増しでよいだろう。

しかし今回の金融正常化のプロセスはもう少し複雑だ。債券市場は、1月のFOMC後に急速に利上げを織り込み、現在は、今後1年間で5回程度の利上げを織り込んでいる(図表3)。これで短期長期金利ともに上昇が止まって小康状態に達している。

 

しかし、もう一つの金融政策であるFRBのバランスシート縮小がどのようなペースになるのかはまだはっきりしていない。現時点では、恐らく縮小のペースは比較的穏やかなものになると想定されている。2019年にも、市場影響なしに年10%程度の資産圧縮を行った経緯があることから、金融市場へのこれ以上の影響はないという見立てである(図表4)。

一方FRBの本音としては、早急にバランスシートを正常化しコロナ前の状態に近づけたいところではないか。何しろ現在の高いインフレ率には国民からの不安・不満も大きく、その原因の一つとしてFRBの資産膨張が指摘されている。インフレ率は早晩ピークアウトするだろうが、需給両面の環境を考えると、すぐにFRBが目安とする年2%程度の水準までに沈静化するとは考えにくい。もちろん、FRBも株式市場には目配りをすることから、市場が動揺すれば縮小ペースを調整する。しかしそれは、少なくとも一度は市場が動揺することを意味する。

つまり、株価はこれまで以上に米金融政策の指標として注視され、暴落はしないものの、上昇すればFRBの資産縮小加速への不安が台頭し伸びが鈍るという特殊な安定相場となる可能性がある。

 

暗号資産市場への影響

少なくとも当面、暗号資産市場も株式市場と同方向に動く可能性が高いだろう。ならば、暗号資産の方が株式よりも変動が大きいため、暗号資産の方がより大きなアップサイドを享受できることになる。

とはいえ、価格が上昇していくためには、成長ストーリーがなければダメだ。その点ではイーサリアムに期待が集まる。技術の進歩と使途の拡大が見込まれるためだ(図表5)。

技術面では、現在イーサリアムでは、より電力を食わない運営を可能にするProof of Stake (ビットコイン等はProof of Work)の技術が実装に近づいている。仮にこれが実現すれば、消費電力量が100分の1で済むとも言われる。また、スケーラビリティ、つまり、利用者が拡大した場合の処理時間の問題についても解決が図られつつある。ビットコインと異なり、イーサリアムは、分散管理ではありながら、発案者のイーサリアム財団が音頭をとって開発が進められるのが強みの一つだ。

さらに、イーサリアムは、ビットコイン以上に使途が広がっている。ビットコインも米国のいくつかの都市で給与払いや実物決済に導入されつつあるが、イノベーション分野での利用という意味では、イーサリアムに軍配が上がる。例えば昨年流行語大賞にもノミネートされたNFT(ノンファンジブル・トークン)だ。プラットフォームとして使われているのがイーサリアムである。昨年12月にはNFTアートが100億円超で落札され、生存するアーティストの最高値を更新した。しかしイーサリアムの強みはそれだけではない。さまざまな実行条件等がプログラムでき、単に資金の決済を証明するだけでなく、情報や動作が作り込める。このため、様々な新しい金融取引やメタバース空間でのやりとりに使われる技術として有望視されている。

 
イーサリアムは、まだビットコインほどの認知度がなく市場規模も小さいため、ボラティリティが高い。取引開始当初は、暗号資産の基軸であるビットコインに対し、アルトコインの1つとも捉えられてきた。しかし、そもそもの技術の特徴やコンセプトの違いから、中長期的にはビットコインに比肩する取引量を達成できる可能性もあるだろう。投資対象としては細心の注意が必要だが、将来の金融の方向性を見る上で、少なくともその進展には注目しておきたい。