世界的なインフレの顕在化により、各国の金融政策は引き締めに転じています。米国では、早くも2022年3月の利上げが予想されています。
そのような中、日本だけは各国とは異なり、金融緩和を継続させて低金利が続いています。
果たして、この状況は今後も続くのでしょうか?
金利には長期金利と短期金利がある
まず、基本的なこととして、金利には長期金利と短期金利があることを押さえておきましょう。
長期金利は、1年を超える期間の金利のことを指します。一方で、短期金利は1年以内の金利となります。
金利が上がった、金利が下がったと言う場合、どの期間の金利を指すのかを、明確にしておく必要があります。
中央銀行は本来、短期金利のみをコントロール
他にも短期金利と長期金利の大きな違いとして、短期金利は各国の中央銀行の金融政策によって決定されます。それに対し、長期金利は長期国債のような債券の需給関係(マーケットメカニズム)によって本来決まるものとなります。
日本国内で日銀が決めることができるのは政策金利だけで、それが短期金利に大きな影響を与えます。
ところが、2011年から始まったいわゆる異次元金融緩和によって、日銀は短期金利をマイナス金利政策で低位安定させるとともに、長期金利も国債の買い入れによってコントロールするようになりました。
これはイールド・カーブ・コントロール(YCC)と呼ばれる手法で、市場から日銀が国債を買い入れることによって、長期金利の上昇を抑制するものです。
海外金利に影響される日本の長期金利
国内金利は、短期金利から長期金利まで、中央銀行によってコントロールされることになりました。
しかし、長期金利の上昇を日銀が国債購入によって抑制するにあたり、日銀の日本国債保有残高は急増し、現時点では500兆円を超える水準まで膨らんでいます。
このように日銀が長期金利上昇を抑えようとしても、海外の金利上昇によって、上昇圧力がかかります。
今週、指標となる10年国債の市場金利は日銀が許容範囲とする目標上限の0.25%付近まで近づきました。これは米国を始めとする、海外金利の上昇の影響を受けたものです。
日銀は0.25%に近づけば、臨時の国債購入で金利上昇を牽制すると予想されています。
日本の長期金利が上昇すると起こるインパクトとは
日本の長期金利が上昇することには大きなリスクが存在します。
最も大きな問題は、日銀の保有する日本国債の価格下落による含み損の発生です。
日銀が現在保有する国債の平均利回りは0.2%前半と言われており、それ以上に市場金利が上昇すれば、保有している国債は含み損の状態になります。
日銀以外の民間の金融機関も同じように国債を保有しています。市場金利の上昇は、金融機関の保有する資産にもマイナスの影響があります。
また、市場金利が上昇すれば、今後の国債の発行コストが上昇します。これは、国の国債による資金調達の金利負担が大きくなり、国の財政状態の悪化に拍車がかかります。
さらに、日本国内の景気回復が遅れている中、長期金利が上昇すれば、日本経済にマイナスの影響が出てきます。
さまざまな理由から、日本政府も日銀も現時点での長期金利の上昇は望んでいません。
今後の日本の金利動向から想定される懸念点
しかし、海外の長期金利が上昇する中で、日本の長期金利だけが低いままとなれば、国内外の金利差が広がります。
これは国内から海外への投資資金のシフトをもたらし、円安要因となる可能性があります。
また、日銀が今後も国債買入れによって金利上昇を防ごうとすれば、国債保有残高がさらに大きくなります。これは、金利上昇時の日銀のリスクをさらに高めます。
もし、日銀のバランスシートが金利上昇により劣化すれば、中央銀行の信任が低下します。これは、円安リスクに拍車をかけることになります。
日本国内でも消費者物価指数の上昇によるインフレの可能性が高まっています。
世界的なインフレと金利上昇によって、最も大きなインパクトを受けるのは日本です。
果たして、日銀は日本国内の長期金利の上昇を今後もコントロールすることができるのでしょうか?
今後、脆弱な中央銀行の状況につけ込むように、ヘッジファンドのような投機的な資金が金利上昇と円安を狙った取引を仕掛けてくるかもしれません。
かつて1992年にヘッジファンドを運営するジョージ・ソロス氏が英ポンドに大量の売りを仕掛けました。その際、中央銀行であるイングランド銀行は英ポンドを買い支えきれず、英国がERM(欧州為替相場メカニズム)から離脱せざるを得なくなりました。その出来事を思い出させます。
2022年の金融市場の大きな注目点として、日本の金利の動きから目が離せなくなってきました。