セブン&アイ・ホールディングス(以下、セブン&アイ)が、傘下の百貨店大手そごう・西武を売却する方向で調整に入ったとの報道がありました。複数の事業会社や投資ファンドが候補になる見通しで、2月中に選定を始める予定です。
以前からアクティビストであるバリューアクト・キャピタル(以下、バリューアクト)は、セブン&アイに対して百貨店など不振事業の分社化を要求していました。
今回は、同社がそのような要求を出していた背景や、今後のセブン&アイの対応の見通しについて解説したいと思います。
そごう・西武の業績はコロナ禍の影響でさらに悪化
セブン&アイは、2006年にミレニアムリテイリング(現そごう・西武)を株式交換と現金により2,000億円超で子会社化しました。しかし、ネット通販が台頭する中で客足は遠のき、そごう・西武の店舗数は完全子会社になった2007年2月期の28店舗から、現在は10店舗まで減少しています。
また、コロナ禍で営業時間の短縮や休業を繰り返した影響で業績は悪化。そごう・西武の2021年2月期の最終利益は約172億円の赤字となりました。
バリューアクトがセブン&アイに分社化などを検討要求
セブン&アイがそごう・西武を売却する方針を固めたのは、大株主である海外の投資ファンドが構造改革を求める圧力を強めたことが一因だと考えられます。
バリューアクトは、セブン&アイに対して経営体制の改善や、百貨店事業など不振が続く事業の分社化の検討を要求していました。さらにセブン&アイ側に目立った動きがないとし、具体的な行動計画を迫っていました。
バリューアクトは、セブン&アイの発行済株式数の約4.4%を保有しており、2022年1月25日にセブン&アイに送付した書簡を公開しました。バリューアクトは投資先への要求を公にするのではなく、経営陣と協力して取り組むことで知られています。日本企業ではJSRやオリンパス、任天堂にも投資しており、JSRやオリンパスには社外取締を派遣し、友好的なアプローチをとっています。
そんなバリューアクトにとって今回の書簡公開は極めて異例の対応となりました。同社はセブン&アイと私的に協議してきましたが、経営陣の能力に対する信頼を失い、年次株主総会で株主提案を行う可能性もあるとしていたのです。
バリューアクト・キャピタルとは
セブン&アイに株主提案をしたバリューアクトは、どのようなアクティビストなのでしょうか。
バリューアクトの運用総額は160億ドル(約1.8兆円)で、日本株への投資を増やしています。2021年11月時点における日本への投資額は4,000億円を超え、運用全体の約25%を占めています。米国に次いで2番目に大きい規模となっており、日本株を保有する量を減らしている外国人投資家が多い中、「逆張り戦略」で日本株に投資しているというようにも見えます。
ただ、これまで同社が投資しているJSRやオリンパス、セブン&アイ、任天堂などは、海外で収益の多くを稼いでいます。日本で上場しながらも、海外で事業展開している企業が多いのです。
2011年に粉飾決算が発覚して経営危機に陥ったオリンパスでは、バリューアクトのロバート・ヘイル氏が社外取締役に就任し、デジタルカメラの切り離しなどの構造改革を行いました。
1月26日付のロイターの記事によると「バリューアクトは、セブン&アイの社外取締役の1人以上が上位株主30社の運用担当者の「意見を直接聞く」ように要求。また、社外取締役のみで構成する「戦略検討委員会」を設置し、「部門の売却やスピンオフ(分離・独立)または第三者との事業統合が、同社および株主により優れた価値と戦略的利益」をもたらすかどうか検討するよう求めた」とのことです。
セブン&アイの今後の戦略の見通し
セブン&アイはバリューアクトから書簡を受け取り、「今回の提案に対して検討を行い、適切な対応をとっていく」と表明しました。そして、そごう・西武の売却方針を固めました。
国内のコンビニ市場は伸びが止まっていますが、海外では成長が見込まれています。同社は約2兆円を投じて米国のガソリンスタンド併設型コンビニ「スピードウェイ」を買収しており、そごう・西武などの国内事業の売却で資金を確保し、海外への成長投資にあてる方針です。
コンビニのグローバル戦略を進めるため、2022年1月から日米以外の出店を主導する専門会社の活動を本格的に始めました。日米以外の地域では、2025年度までにコンビニ店舗数を2021年2月期比で3割増しの5万店に増やす予定だと報じられています。
今回はそごう・西武といった百貨店を切り離しますが、「イトーヨーカ堂」などのスーパーストア事業は、当分存続させる見通しです。ただ、イトーヨーカ堂の2021年9~11月期の営業損益は35億円の営業赤字で、そごう・西武の13億円の営業赤字を上回っています。
今後収益力の改善を示すことができなければ、バリューアクトなどのアクティビストからの売却圧力が再び強まる可能性があるでしょう。セブン&アイは、コンビニ事業以外でも目に見える収益力の改善を示すことが必要になってくると思います。