>> >>特別インタビュー【2】米国株の注目3銘柄、株式市場のリスク、物流停滞の懸念は今後どうなる?

ポートフォリオ構築におけるESGの重要性

岡元:クリシュナさんのポートフォリオ構築におけるESGの重要性と、ESGの構成要素(環境・社会・ガバナンス)をどのように評価しているか教えてください。

クリシュナ氏:私たちは非常に早くから投資プロセスのあらゆる側面においてESGの要素を取り入れてきました。まず評価の観点から割安と思われる企業をリサーチする際、16の要素からなる独自のARGA ESGスコアリングモデルを採用し、環境・社会・ガバナンスについて、同業他社や企業全体と比較してランク付けしています。そのため、ESGに関する主要なリスクと機会が何であるかをすぐに知ることができます。

そしてESGの観点からリスクよりもチャンスの方が大きいと判断した場合、その企業でESGがどのように実施されているか、またそれを改善するためにはどのように企業と関わることができるかを考えます。それにより、私たちは先進国市場でも新興国市場でも多くの成功を収めてきました。

過小評価されている事業の中で、E(環境)・S(社会)・G(ガバナンス)のあらゆる観点から対処すべき問題を特定した後、実際にそれらを改善するために経営陣と対話しています。それが最終的に企業のビジネスのため、コミュニティのため、労働者のため、そして当然ながら株主のためになります。それこそが、私たちの信念です。

ESGの要素を投資に取り入れるため、広範囲にわたるデータを収集してきました。そのため当社には大規模なリサーチチームがあります。そして私たちは、企業がESGの観点からやるべきことをやっているかどうかを確認するための対話を重視しています。

このように私たちはESGの観点で深い知識を持つリサーチチームによるデータと、企業との対話を通じ、企業がどこであろうと継続的に関わっていくことができます。

米国は人口増加や生産性の向上などで成長が続く見通し

岡元:クリシュナさんの米国の株式市場に対する長期的な考えをお聞かせください。

クリシュナ氏:私たちは常に割安に評価されているビジネスを探しており、多くの場合、企業毎にアプローチしています。ですから、基本的には個々の企業を見ることを好みます。とはいえ、顧客から米国市場の見解を求められることもあります。

個々の企業についての独自の調査を行い、それらの調査を集約してみると、米国企業の長期的な見通しは非常に明るいと考えています。

その理由はとてもシンプルです。長期的に見て、経済、ひいてはその経済に属するすべての企業の成長をもたらすものは何かといえば、それは人口の増加と生産性の向上です。先進国の中でも米国は、おそらくその恩恵を受けるのに最も適した立場にあると思います。

人口増加の観点では、米国への移民について否定的なニュースがあったとしても、米国は移民に対して最も開放的な国の1つであり続けており、国内の出生率も非常に良好です。つまり米国は当面、人口増加率がプラスで推移するということです。

同様に重要な点として生産性の向上がありますが、米国はこの分野でも非常に優れた牽引役であると言えます。私たちがよく目にするテクノロジー分野だけでなく、ほとんどすべての産業において、米国は歴史的に見ても生産性の向上に素晴らしい成果を上げてきました。

これらを踏まえ、米国の長期的な成長は持続可能であると考えています。

そして2つ目は、米国の企業セクターです。環境問題や社会問題など、米国企業が取り組むべき課題については疑問が残るかもしれません。しかし、ガバナンスの観点からは、企業が責任を負うべき非常に優れたガバナンス基準を備えており、株主が最終的に望むようなリターンを提供するため日々責任を負っています。このように、株主と企業が協力して正しい結果を求めるという意味では、米国は非常に良い市場だと思います。

そして最後に、米国はとても広くて深い市場です。この国には考えうるほとんどすべての業界の企業が集まっています。そして常に素晴らしいことを行っている企業があります。もちろん、私たちは単に素晴らしいことをやっているというだけではなく、バリュエーションを分析して割安である企業を探しています。そのような企業に一時的な問題があり、それを見極めることができれば、そのビジネスで成功することができます。

ですから長期的に見ても、米国は非常に良い市場だと考えています。

新興国市場のバリュー株に注目する理由

岡元:クリシュナさんはグローバルマネージャーとして世界各地の市場を見ていらっしゃいますが、特に価値を見出している市場はありますか。

クリシュナ氏:純粋なバリュエーションという意味では、現在の新興国市場は非常に魅力的な傾向にあると言えます。その理由は、これまでのニュースの見出しでも見て取れます。

先進国の中でコロナワクチン接種を進めて、この9ヶ月ほどで良好な経済活動を取り戻したのは、おそらく米国が最初だったのではないでしょうか。そして欧州、日本が続いています。

しかし世界の他の地域に目を向けると、特に新興国市場、つまりインド、ブラジル、ロシア、そして最近では中国のような大国でも、まだ新型コロナウイルスの新規感染者数が増加していたり、ロックダウンが行われたりしています。コロナ禍がなかった場合と比較して、この9カ月ほど経済活動が停滞しているのは明らかです。

つまりこれらの国々の経済活動は停滞しており、それに伴い株式市場のバリュエーションも抑制されているというのが私たちの見解です。先進国市場を見てみると、ここ1年から1年半の間、特に米国市場はかなり好調でした。

ほとんどの新興国が大幅に遅れをとっていますが、今後1年のうちには新興国市場においても新型コロナウイルスの対応が進むと考えています。インドでは既に対応が進んでいるようです。例えば、現地では経済活動がほぼ正常に戻っています。同様に、ブラジルが順調に回復していることにも注目しています。中国は当初、迅速な回復が見られましたが、最近では減速し、いくつかの地域でロックダウンが発生しています。

しかし、過去9ヶ月ほどの間に、特に米国のような先進国で新型コロナウイルスの対応が進み、経済が徐々に回復してきているように、12ヶ月後には新興国でも新型コロナウイルスへの対応が進み、経済も活性化すると考えられます。

ですからこれから先、新興国市場の企業の経済成長、ひいては収益の拡大が期待されます。それに伴い投資家が注目するようになったことで、これらの市場の評価も高まっています。新興国市場のバリュエーションを見ると、他の先進国市場と比べ、歴史的にも著しく過小評価されています。

そして重要なことは、新興国市場におけるバリュー株投資の機会が非常に大きいということです。1998年と1999年のように、これまでで最も広い範囲での投資が可能です。そのため、私たちは新興市場、特に新興国市場のバリュー株について非常に楽観視しています。

個人投資家への3つのアドバイス

岡元:最後に、個人投資家として成功するためのアドバイスをお願いします。

クリシュナ氏:まず皆さんに感謝の意を述べたいと思います。私はこの25年間、多くの投資家、特に日本の投資家の皆さんに支えられてきました。

私は皆さんに3つの考え方をお伝えしたいと思います。

まず株式投資について、「株式」ではなく「ビジネス」に投資すると考えてみることです。ご自身が購入しているのはビジネスであり、一般的なビジネスは、適切な分野で適切な管理がなされていれば長期的にはうまくいくものです。

2つ目は、「忍耐強くあること」です。割安であるビジネスを見つけたからといって、他の人がすぐにそれに気づくとは限りません。ですから投資をするときは、とても忍耐強くなければなりません。

そして3つ目のポイントは、「人と違うことを恐れない」ということです。ご自身が正しいと思って投資しても、他の人たちが反対の行動をとる場合もあるでしょう。そんな時でもビジネスチャンスや投資機会を見極めるプロセスに基づいた見解があれば、それを活用することを恐れないでください。誰もが気に入っているということは、おそらく割安ではないということですから。

岡元:本日は、お忙しい中インタビューに応じていただき本当にありがとうございました。

クリシュナ氏:こちらこそありがとうございました。

本インタビューは2021年11月25日に実施しました。