11月に、東芝と米ゼネラル・エレクトリック(GE)がスピンオフによる会社分割を発表しました。そして、これらの企業の株主の中には、アクティビストがいます。アクティビストは、なぜスピンオフする企業に投資したのでしょうか。また、これらの企業に対してどのような要求をしているのでしょうか。今回の記事で詳しく解説します。

スピンオフとは

スピンオフは、会社分割の手法の1つです。会社分割とは、複数の事業を持つ会社が特定の事業の全部や一部を、他の会社に承継させることをいいます。新しく会社を設立して事業を引き継ぐ「新設分割」と、すでに設立してある会社に事業を移す「吸収分割」があります。

スピンオフは「新設分割」にあたり、特定の事業や子会社を独立した会社にする手法です。コロナ禍による経営環境の変化によって、企業には迅速な選択と集中が求められています。しかし、多角化している企業はすべての事業に目が届かず、経営効率が悪化する傾向にあります。

しかし、グループ内で埋もれている事業をスピンオフによって切り離せば、中核事業に専念できます。またスピンオフによって独立した事業も、戦略の自由度が増すというメリットがあります。

米国では実績が多い「スピンオフ」

日本では2017年度の税制改正でスピンオフが可能になりました。ただ、これまでの活用例は、カラオケ事業とフィットネス事業に会社を分割したコシダカホールディングス(2157)の1社だけとなっています。

11月11日付の日本経済新聞の記事の中で、みずほ証券の菊地正俊チーフ株式ストラテジストは「日本の経営者は、スピンオフによって利益の出る会社になるよりも、利益率は低いが売り上げの大きい企業のままでいたほうがいいという判断に傾きがちだ」と述べています。

しかし米国では、毎年50件程度のスピンオフが実施されています。ヒューレット・パッカード(HPQ)は、スピンオフによって法人向けサービス事業とパソコン事業に会社を分割。電子商取引のイーベイ(EBAY)は電子決済のペイパル(PYPL)をスピンオフし、ペイパルは急成長しました。

上記の記事には「米国ではコングロマリットをスピンオフによって解体し、生き残れる事業に資源を特化。その過程で人材も流動化し、産業の新陳代謝が進んだ。これによって米国では『破壊的イノベーション』をうむ産業構造が整い、いまの巨大テック企業がうまれる素地ができたという」と書かれています。

スピンオフの効果

スピンオフの効果は、主に次の3つがあります。

経営の独立による効果

スピンオフされた企業の経営者は、元の会社を気にすることなく自らの事業に専念できます。そして元の会社の経営者も中核事業に専念することが可能になり、コングロマリット・ディスカウントの解消にもつながります。

コングロマリット・ディスカウントとは、複数の事業を抱えるコングロマリット(複業企業)の企業価値が、事業ごとの合計よりも小さい状態のことをいいます。事業の多角化は業績の変動を減らす効果がありますが、事業の全体像が見えず市場価値の評価を下げる場合もあるのです。

資本の独立による効果

スピンオフされた企業は独自で資金調達できるようになるので、それまで元の会社の都合で見送られていた投資も可能になります。

上場の独立による効果

スピンオフによって、その事業に詳しい投資家の関心を惹きつけられるようになり、適正な株価評価を受けやすくなります。その結果、スピンオフによって切り離された事業は「コングロマリット・ディスカウント」を克服しやすくなり、株価が上がりやすくなるのです。

アクティビストが企業にスピンオフを要求する理由

冒頭で述べた通り、日米のコングロマリットの代表格であるGEと東芝が、スピンオフによる会社分割を発表しました。GEは事業を医療・エネルギー・航空の3つに分割すると発表。東芝も、半導体メモリー大手のキオクシアホールディングス株などを管理する会社と、インフラとデバイスの2事業会社に分割し、それぞれ2023年度下期をめどに上場させる計画を発表しました。

そして、両社のそれぞれの株主にはアクティビストが入っています。GEには「トライアン・ファンド・マネジメント」が、東芝には「エリオット・マネジメント」が株主となっています。

アクティビストはスピンオフなどの会社分割により、株主に企業価値が還元される可能性が高いと考え、企業にスピンオフを要求しています。GEや東芝などの複業企業の中には、「コングロマリット・ディスカウント」の状態にある企業もあります。そして、コングロマリット・ディスカウントを回避する方法の1つがスピンオフなどの会社分割です。既存株主は、このような複合企業がスピンオフすれば株価が上昇し、株主への還元価値が上がることを期待できます。

また、これまで複合企業の有望な事業に投資したくても、他の事業の影響を懸念して投資をしてこなかった新規投資家も、スピンオフによって投資しやすくなるというメリットもあります。

今後は日本でもスピンオフが広がる可能性も

スピンオフを実施しなくても、第三者に事業を売却する方法もあります。ただ適切な買い手が見つかる保証はありません。買い手が競合他社しかいない場合、経営者は売却をためらいがちで、機動性に欠けます。

また、一定の持ち分を持ったまま上場企業が子会社を上場させる「親子上場」は、子会社の株主の利益を阻害する可能性があります。しかし、親会社と資本関係が切れる「スピンオフ」なら、そうした問題はありません。

欧米ではスピンオフされた企業が規模を拡大するため、同業とのM&A(合併・買収)を積極的に行い、産業再編の中核を担っています。日本企業はこれまでスピンオフには後ろ向きでしたが、コロナ禍で経営環境が大きく変わり、こうした発想を変える転機になると私は考えています。

東芝をきっかけにスピンオフが日本でも広がれば、これまで欧米に比べて遅れていた事業再編の流れが、日本でも加速する可能性が高まのではないかと思います。