不動産税への懸念、IT企業締め付け、オミクロン株などが下落要因に?

11月後半の中国株は、本土市場は小幅上昇、香港市場は大幅下落となっています。11月12日終値から29日終値までの騰落率は、上海総合指数が+0.7%、香港ハンセン指数が-5.8%となっています。

香港市場が大きく下落している理由ですが、まず、調子の良かった相場が下げに転じたのは10月25日以降で、これは前回のコラムで述べた通り不動産税の懸念が市場に重くのしかかったためです。

そして11月後半からはIT企業への規制強化が再燃してきました。まず、11月14日に中国国家インターネット情報弁公室は「インターネットデータ安全管理条例」の草案を発表しています。これによって、中国IT企業に対する統制がさらに強まるのではないかとの見方が強まりました。

また、11月25日の報道では、中国工業情報化部は「微信」を展開するテンセント(00700)に対し、アプリの配信や機能更新の際に、中国工業情報化部による技術審査を義務付けるという措置を通達しています。

さらに、11月26日には中国当局が配車アプリ大手の滴滴グローバル(米国上場:DIDI)に対して、米国株式市場から撤退する計画をまとめるように求めているとの報道がありました。これによって中国当局が中国のIT企業に対して規制をさらに強める方針であるとの見方が強まりました。

もちろんこれ以外に、11月末には新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」による世界経済減速懸念で世界的に株価が下げた影響も受けています。もっとも、11月29日には「オミクロン株」の世界経済への打撃は懸念されていたほど深刻ではないかもしれないとの見方から、欧米の株価は戻しています。

苦境に立たされる中国IT大手企業、中国当局の思惑とは

ところで、11月後半に株価が一番下落した中国のIT大手企業はアリババ・グループ・ホールディング(09988)となります。7-9月期(第2四半期)の決算発表を控え、11月18日に5.3%下落しました。18日の引け後に発表された決算は、売上高が市場予想平均を約2%下回り、調整後純利益では市場予想平均を約4%下回る内容でした。

そして通期の売上高見通しを従来予想の9,300億元から、前年比+20~30%増となる8,610~8,820億元へと下方修正しました。これを受けて、19日は10.7%もの大幅下落となりました。

中国のIT企業に関しての見方は分かれるところです。習近平国家主席の打ち出す「共同富裕」構想により、主にテンセントとアリババを標的に、中国は「データ税」のようなものを新設し、IT企業の富を社会へ還元させるのではないか、とする観測もあります。そうなると従来100の稼ぐ力があったとしても、税金で2~3割ほど減ってしまう恐れもありそうです。ただ、長期に目を転じれば、明るい材料もあります。

米国からの半導体依存を脱すべく、中国政府の半導体産業育成政策の中心を担うはずだった国営半導体大手の精華紫光集団は、1,000億元を超える負債を抱えて経営破綻し、現在再建中です。経営再建中の紫光集団に、アリババが主導するコンソーシアム(他に浙江省政府のファンドなども参加)が500億元超を投じて買収し、事業継承する案が急浮上しています。

紫光集団へ多額の投資を行ってきた政府はアリババの潤沢な財務に頼ることで過去最大の倒産を回避でき、また同社のクラウド事業とのシナジー効果も期待している様子です。アリババにとってもクラウド事業を支える半導体供給は魅力的です。12月にも買収取引がまとまる見通しです。これは中国政府とアリババなどのIT企業の共存共栄を意味する出来事になるのではないかと思います。

中国政府は決してIT大手企業を潰そうとはしていないはずです。むしろ紫光集団破綻で分かったように、国営の力だけではIT企業の競争力を上げられないことを痛感し、IT大手企業の財務力とノウハウを利用し、共存共栄を図るつもりではないかと考えます。

共同富裕の実現においても、IT大手企業の稼ぐ力を利用しないと無理であり、追い込み過ぎて潰してしまっては国の政策も立ち止まると思います。

今後、個人情報は国家のもの(所有権)として統制を強め、国のデータを利用してIT企業に儲けさせてあげるので、その代わりIT企業は富の幾分かを共同富裕構想に沿って国に還元する、持ちつ持たれつの体制が確立されていくのではないかと思います。