今回も東証マネ部が現役僧侶に聞いた相続の事前準備のお話です。
 

人によっては、親子で語り合うのはどうも気恥ずかしいことがあるかもしれません。

ましてや人生のこと、生き死にやお金のこと。これらのテーマはあまりにも重い。しかし、相続についてもっとも大切なのは腹を割ったコミュニケーションであることは、前編でお話したとおりです。

ならば、いかにして語り合うべきか、いくつかのポイントに分けて考えてみましょう。

ふたりきりは避け、家族や親族を交えて話しましょう

気まずさを押して、ふたりきりで話し合う…というのは、難しいかもしれません。

であれば、家族や親族がいるタイミングで話してみるのはいかがでしょうか。信頼できる第3者に事前に話したい旨を伝えておけば、きっと緩衝材の役割を買って出てくれます。

とはいえそこで「自分が死んだあとに」「親父がもし死んだら」なんて、そのものズバリな切り出し方は相手をこわばらせてしまいます。「先々のことについて考えておきたい」など、それとなく話題を振ると良いかもしれません。

ライフイベントや行事を利用して話してみましょう

法事などの先祖にまつわるライフイベントは、生死に思いを馳せる良い機会です。「便乗するなんて気が引ける」と思われるかもしれませんが、私は常々、こういった行事を通して自身の人生を顧みることを皆さんに勧めています。

核家族化が進んだことで、親族が一同に会し、相続者が集まる機会は減っていますから、思い切って活用してみませんか。ほかにも、お盆や年末年始なども話しやすいタイミングかもしれませんね。

セミナーなど、第3者のサービスを利用するのも手です

終活や資産運用、相続などのセミナーや相談会を活用するのも良いでしょう。こういったイベントに一緒に行くことで、課題意識が芽生え、当事者同士でゴールの共有ができるので、話が早いという考え方もできます。

誘い出すのにひと手間かかるかもしれませんが、話し合いにくい話題についてプロの手を借りて一緒に考えることは、何も恥ずかしいことではありません。

日ごろのコミュニケーションから始めてみましょう

とはいえ、いずれの場合も、”角が立つ”可能性は否定できません。なにぶん、心に波風を立てやすい話題ですから、話し方には注意を払いたいものです。

しかし親子のように近しい間柄では、なかなか素直になれないのも人の心の難しいところ。そこで日ごろからコミュニケーションを取り、互いに腹を割って話しやすい環境を作ってみてはどうでしょうか。

これまで疎遠だったとしても、これを機会に少しずつ距離を縮めていけるのだとしたら素晴らしいことですよね。

大事なのは、秘密を作らないこと。そして焦らないこと

実際に話をして大事なのは、互いを信じて包み隠さず話すことです。

例えばへそくり口座があって、それを話さずにいたら、死後に税務調査で明らかになった際に申告漏れになってしまうかもしれません。あるいは誰にも知られないまま10年経てば、休眠口座となって国に没収されてしまうなんてことにもなりかねません。

大事なのは”ちゃんと話しきる”ということで、さらにそれを相続の当事者同士で共有しておくことです。「勝手に決めて納得がいかない」と感じる親族や兄弟がいたら、やはり本末転倒ですよね。

そして焦らないことも大切です。話をすることがゴールではなく、大きな一歩と考えて下さい。

話しにくいこともあるかもしれません。気まずくなってしまう局面もあることでしょう。相続の決めごとは、人生の棚卸しに等しい行為です。何十年という人生を、たった1度の会話で総括できると考えるのは無理があります。

親は子に全てを伝える気持ちで、子は親に思い出話を聞かせてもらうつもりで、きちんと向き合って歩みを進めましょう。

「不立文字(ふりゅうもんじん)」という考え方

これは有名な禅語で、本当に大事なことは文字では伝わらないということを表しています。

禅の教えとは言葉にできず、行動でもってのみ示すことができる…というのが本来の意味ですが、相続に当てはめた場合にも同じことが言えるでしょう。基本的に要件の記載のみで成り立つ遺言書ですべてを伝えきろうというのは難しい話です。

そもそも話し合いでも、関わる全ての人が納得感を持って受け入れられるかどうかは怪しい。それだけ、次の世代に受け継ぐということは難しいと心得て下さい。人生に向き合って、すべてを託すというのは、それだけ大変なことなのです。