人が生きるということは、様々なことを積み重ねていくということ。心もお金も、次の世代に引き継ぐべき大事な資産です。
とかく敬遠しがちなお金についても、先々を見据えてしっかりと向き合うことは、この時代に必要な努めではないでしょうか。今回は、東証マネ部が現役僧侶に聞いた「親の遺産を正しく把握」するための方法をご紹介します。
「どれだけの資産を持っているのか」を把握する
人はいつか必ず死を迎えるものです。人生の末期を悔いなく迎えるためには、子や孫など次の世代への引き継ぎを終えることは、とても大切なこと。つまり“遺産”です。
一口にそう言っても、様々なものが遺産に含まれます。お金や証券などの文字通りの遺産に加え、マナーや考え方、仕事への姿勢や思い出などなど、心の遺産も然り。後者は「親の背中を見て子は育つ」と言いますから、一朝一夕で遺せるものではありません。
末期に臨んで、資産をどうするのかは次の世代にたすきを渡す人の大事な努めだと思います。と同時に、資産の相続を侮ってはいけません。仲がよかった家族や親族が、相続のいさかいで関係にひびが入るケースは、古今東西枚挙にいとまがありませんし、私自身も多く目にしてきました。
「お金のことだから」と遠慮して、結果的に不幸が訪れては本末転倒ですよね。しっかりと事前に向き合っておくことを強く伝えています。
なにせ、あらゆるものが引き継がれるのが遺産の相続なのです。もっとも大切なことは、生前の元気なうちから相続についてキチンと話し合うことです。
いかにして話し合えばいいのかは、後編でお話しますが、子や孫を持つ自分が、あるいは老いていく親が、「どれだけの資産を持っているのか」をどう把握するかが第一歩です。その内訳は、実際当の本人にしかわからないことがほとんどなのです。
相続する資産は預金ばかりではない。金額をどう把握する?
預貯金や定期預金口座の残額を見ればいいわけです。ただ、ご本人すら忘れている別立ての口座や、へそくりの口座が存在することだって希にあります。亡くなったあと、税務署から指摘されてしまうケースもあります。
そうならないためにも、じっくりと時間を掛けて振り返り、自身の人生を棚卸しすることが大切です。
さて、資産といっても現金ばかりではありません。不動産や有価証券も含まれます。たとえば不動産であれば、固定資産税の通知があるので、税額の根拠となる評価額は客観的な根拠になるでしょう。有価証券のうち、株式は上場している株であれば、その日の終値がいくらかが目安となります。
たとえば同族会社を経営していて、いくばくかの出資をしているという場合もあるでしょう。社長が持つ1,000株の客観的な価値がいくらなのか、法人税の申告をしている税理士さんに聞けば、直前の決算期の内容をもとにして、1株当たりの相続税法上の価格を計算してもらうことができます。
一方、資産には負債も含まれます。借入金があったり、ローンの残額が残っていたりと、プラスもマイナスも一緒くたに資産です。これが相続なのです。個人のいいことも悪いことも次の世代に引き継がれてしまうのですから、事前に把握しておくことが、いかに大切かがわかりますよね。
残された人のことを考えて行動すれば、その姿勢も遺産に
これらのことを怠ると、残された人がゼロから資産を調べたり、通帳や有価証券を求めて家の中を捜し、役場に赴いて名寄せ帳から不動産のありかを探したり…骨の折れる作業が発生してしまいます。
それが終わったと思えば、「相続の放棄」(死後3ヶ月以内)、「所得税の準確定申告」(同4ヶ月以内)、「相続税の申告」(同10ヶ月以内)などの必要な諸手続きも次々と降りかかってきます。
ただでさえ葬儀や手続きで慌ただしい中で、それらのことを行うのは実に骨が折れます。何より、「弔う」ということに集中していただきたいと思うのです。
相続における「生死事大 無常迅速」という考え方
「生死事大 無常迅速(しょうじじだい むじょうじんそく)」とは、唐の時代の禅僧、慧能(えのう)禅師の言葉です。生き死にというものは、誰にとっても一大事である。しかし月日は無常に、迅速に過ぎ去っていく。だからこそ、無為に過ごしてはいけないという意味です。
繰り返しますが、人は必ず死を迎えます。しかし、それがいつになるのかはわかりません。年を重ねてより良い自身を求めないことは、無為に生きるということでしょう。そこには、後に残された人のことを考えて行動することも含まれるでしょう。
さらにいえば、その姿勢自体が大きな遺産になると考えられます。自分が死んだあと、「ここまで準備してくれたんだ」と思わせる覚悟と行動は、残された子や孫の心に大きな灯を遺すことになると思います。
【後編】では、親と子が、遺産相続について語り合う際のポイントをご紹介します。