世界的なインフレの動きがマーケットの大きなテーマになってきました。エネルギー価格の上昇や、経済活動が活発化することに伴う物資の輸送需要の急拡大、更には半導体不足といった要因が重なって、物価の上昇懸念が広がっています。

海外ではインフレ懸念から利上げの動きへ

米国では、2021年に入ってから米消費者物価指数(CPI)の上昇が続き、米連邦準備制度理事会(FRB)は金融緩和の縮小を行うテーパリングの開始を決め、2022年以降の政策金利の引き上げも検討し始めています。

米国以外の先進国でも金融政策を引き締めに転換する動きが広がってきました。ノルウェーがゼロ金利政策から離脱し、ニュージーランドも10月に7年ぶりの利上げを行いました。

コロナ禍で景気刺激策から金融緩和を続けていた各国の中央銀行も、インフレに配慮した金融政策を実行する状況に追い込まれてきているのです。

落ち着いている日本の消費者物価指数

それに比べて対照的なのが日本のインフレ動向です。企業物価は上昇しているものの、消費者物価に転嫁することができず、2つの物価でギャップが広がっています。

これは、日本では消費者需要が弱く価格を引き上げることができないことが原因と考えられています。

その背景には、日本の賃金上昇の停滞が存在します。

過去20年間の名目平均年収は米国で約8割、ドイツやフランスは約5割増えたのに対して、日本は5%減少です。日本の平均賃金は、この20年間でほとんど変わらず、長期の賃金トレンドは海外と対照的です。

賃金が上がらないだけではありません。社会保障費の負担が大きくなって、可処分所得が伸びないことも影響しています。

世帯人数2人以上の勤労者世帯の可処分所得は、20年間で5%しか増えていないのに、社会保険料は35%も増えています。社会保障費の負担増が、所得の上昇を帳消しにしているのです。

インフレに向けてやっておくべき2つのポイント

しかし、世界的なインフレ傾向が加速すれば、日本の消費者物価もグローバルな流れに巻き込まれていく可能性は充分考えられます。

もし、インフレになるのであれば、日本の個人投資家がやっておくべきポイントは、(1)インフレに強い資産を持つこと。そして、(2)借り入れをしておくことの2つです。

金融資産の中では、預貯金や債券はインフレに弱い資産と言えます。一方で、株式やREITのような資産はインフレに強いと言えます。

また、借り入れも有効なインフレ対策と言えます。借り入れを使って国内不動産を購入すれば、インフレが顕在化した際、不動産価格は上昇する可能性が高いものの、借り入れの金額は変わりません。

例えば3,000万円借りて、同額の不動産を買ったとします。インフレで不動産価格が上昇しても、借入金額は変わりません。その差額はインフレからのリターンとすることができます。

インフレリスクを視野に入れたポートフォリオを形成する

ただし、インフレになるかならないかを予想することは簡単ではありません。現在のエネルギー価格の上昇や輸送コストの高騰も時間と共に鎮静化していくという見方もあります。インフレ率が低下していけば、市場が予想するよりも金利が低下していく可能性もあります。

資産運用で大切なのは、マーケットの方向性を当てにいくことではなく、どちらに転んでも大きなダメージを受けないようなポートフォリオを構築しておくことです。

インフレリスクに対処するためには、金融資産をインフレに強い資産とインフレに弱い資産に分けて、その比率を管理していくのが現実的です。また、金融資産と不動産のような実物資産への分散や、借り入れの比率についても資産全体からどの程度にするかを考える必要があります。

少なくとも、インフレに弱い預貯金や国債のような債券を中心に資産を保有している人は、インフレを想定したアセットアロケーションに修正していくべきでしょう。