米ドル/円相場は115円をトライする水準にまで上昇してきました。米ドル/円上昇はさらに続くでしょうか。

利上げを決めたニュージーランド準備銀行(RBNZ)と利上げを見送ったイングランド銀行(BOE)

米国では米連邦準備制度理事会(FRB)が11月、金融緩和の規模を縮小する「テーパリング」を開始しましたが、これは緩和の規模を縮小するものであって引き締めではありません。まだ量的緩和政策は続いています。利上げはテーパリングが終了した後、というのがコンセンサスです。

他方、RBNZは10月に7年ぶりの利上げに踏み切りました。しかしながらNZドルは10月下旬に高値をつけてから下落基調にあります。利上げしたにもかかわらずNZドルは買われていないのです。

ニュージーランドの7~9月期の消費者物価指数(CPI)上昇率は前年同期比4.9%でした。ガソリンや家賃、食品など幅広い品目でインフレが確認され2011年7~9月期以来約10年ぶりに中央銀行の政策目標である1~3%の上限を超えました

ニュージーランドでは特に住宅価格高騰への懸念が大きく、2021年8月の全国住宅価格の中間値は前年同月に比べ25.5%もの急激な上昇となっています。こうしたインフレに歯止めをかけるために利上げに踏み切ったわけです。しかし、ニュージーランドでは10月以降新型コロナウイルス感染者の増加が続いており、過去最多を更新しています。経済への影響も懸念される中での利上げなのです。

また、英国は11月の利上げこそ見送りましたが12月には利上げに踏み切ると見込まれています。しかし英ポンドもまた、10月下旬を高値に下落が続いています。これはなぜでしょうか?

英国での新型コロナ感染者数は1日3万人を超えている中、インフレ抑制のための利上げが果たして景気への悪影響となりはしないか、とマーケットが強い懸念を抱いているのです。

米中央銀行は利上げに慎重なスタンス

対して米国は利上げには慎重です。11月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で示された計画では2022年6月にはテーパリングが完了する予定ですが、マーケットの次の焦点は「米国の利上げ」の時期となっています。

ちなみに10月の米消費者物価指数(CPI)は前年同月比で+6.2%でした。
9月との比較でも+0.8ポイントと高いインフレの実態が確認されており、マーケットにはテーパリングが強化される可能性や、利上げ時期が来年の早い時期に前倒しになるのではないか、といったタカ派的な見方が台頭しつつあります。

そのため、早期に金融緩和を終了させなければインフレが収まらず、そのことが景気を冷やすリスクとなる可能性もあります。

現状においては、FRBは「インフレは一時的である」として早期の利上げに慎重なスタンスを崩していません。世界の様々な取引の基軸通貨となっている米ドルの金利が上がれば、米ドル建てローン、借金の利払いが増えるなどあらゆるところに多大な影響をもたらすこととなります。

世界のマーケット関係者は、ニュージーランドや英国の金融政策の転換よりも世界で最大の流通量を誇る米ドルの金融政策の転換を重視していることが分かります。

米国債利回りは短期ゾーン上昇も長期金利は上昇が抑制的

ではなぜ米国はまだ利上げに踏み切っていないのに米ドルが強いのでしょうか。その答えは米国債の短期債利回りにあります。

特に2年物国債利回りは、今後の政策金利の動向を先行して動くとされていますが2年~5年までの短期国債の金利は上昇トレンドが続いています。10~30年といった長期ゾーンの国債利回りの上昇は抑制的ですが、このところの為替市場で米ドルは短期債利回り上昇を見て動いているのです。これは金融政策の転換期に見られる相関で何ら不思議はありません。

12月FOMCでのドットチャートに注目

12月14~15日、米国では2021年最後のFOMCが開催されます。12月は金融政策委員らの経済、金利見通しが公表されます。

FOMCメンバーらの米国の政策金利であるFF金利予想を点(ドット)で散布図化した「政策金利の見通し」をドットチャートと呼びますが、6月FOMCではドットチャートの予想分布が予想よりタカ派的(利上げ時期が早まる予想が増えた)となったことで米ドル買いが一段と進みました。

もし12月のドットチャートでメンバーらの見通しがさらにタカ派となれば米ドル買いが一層強まる可能性が強いと考えています。米ドル/円相場は12月FOMC前後の値動きに注意が必要ですが、最終的には強い展開が続くのではないでしょうか。