高齢化が進む日本。総務省が発表している2021年の人口推計によると、65歳以上の人口は3,631万7千人、90歳以上の人口は259万人になりました。高齢化に伴って亡くなる人も増えています。2019年の年間死亡者数は約137万6千人でした。
私たち日本人は自分の死後について話すことを、あまり得意としていないように思います。死後の話題は「縁起がよくない」というイメージがあるのかもしれません。
しかし、最近では「終活」にみられるように、病気になったらどのような治療を受けたいか、葬儀はどうしたいか、お墓はどうするか、遺産はどうするか…など、事前に準備をする人が増えています。
これらの準備は、自身が体調を崩したり病気になってからだと難しくなります。切り出しにくい話題ですが、ご家族が元気なうちに一度話しておきたいところです。
遺産相続をめぐるトラブルは増加中
「終活」の中で、しっかり決めておきたいことの1つに「相続」があります。配偶者や子どもに相続させたい財産がある、あるいは、ご両親から相続する可能性がある場合は、その内訳や分け方をあらかじめ話し合っておくと良いでしょう。
なんといっても避けたいのが、相続をめぐるトラブルです。近年、遺産相続に関するトラブルが増えています。司法統計によると、2019年度の全国の家庭裁判所が新規に受けた遺産相続や寄与分に関連する調停件数は約1万4,400件。20年前に比べて6割も増えています。
また、相続での揉めごとに、資産の規模はあまり関係ないようです。同資料によれば、家庭裁判所で取り扱われた遺産分割事件のうち、遺産総額が1000万円以下のケースが3割強(2,448件)、1000万円超〜5000万円以下が4割強で(3,097件)、5000万円を超えるケースが2割弱(1,312件)とのこと。全体の75%以上が遺産総額5000万円以下のものでした。相続をめぐる争いは、お金持ちに限った話ではないようです。
よくあるトラブル、不動産(土地)に注意!
相続財産の中に自宅などの不動産がある場合は、特に注意が必要です。不動産は現預金に比べて分けるのが難しく、特に親と同居する子がいる場合に意見が対立しがちです。不動産を売却して分ける方法もありますが、売却をめぐって主張が食い違うかもしれません。
相続人の1人が不動産を取得する場合は、他の相続人に代償金を支払う場合もあります。お金が足りずに代償金を払えない、そもそも代償金の金額をいくらにするか、という時点でトラブルが発生する可能性もあります。
話し合いで解決できず、家庭裁判所で行う「遺産分割調停」まで発展した場合には、解決までに多くの時間を要します。精神的な負担も少なくないでしょう。
「誰に遺産を遺すか」意思を示しておく
相続トラブルを防ぐためには、やはり事前の話し合いが有効です。遺産は故人の考えに沿って分けることが原則です。もちろん「遺言」で意思を示すのも有効な手段ですが、相続人の死後、受け取る側が遺言の内容に納得がいかず、揉めてしまうこともあります。
よって、事情が許すのであれば、生前に口頭で説明して、ある程度全員が納得できる遺産の分け方を話し合っておくのがベストです。文章よりも会話の方が思いが伝わるかもしれませんね。
例えば、「〇〇には、日常生活のサポートをしてもらったので、自宅を相続させる」といったことも、相続する本人から聞くと納得しやすいでしょう。子どもが複数いる場合は、相続する資産だけでなく、生前の援助なども考慮すると良いかもしれません。援助の機会が少なかった子どもに対しては、別にまとまった額を渡す…など手当しておくと、公平を期すことができそうです。
話し合いが難しい場合は、遺言書を残しておきたいところです。遺言書の作成は、簡単な内容であれば、必ずしも専門家に依頼する必要はありません。ただ、特定の人の相続割合を高くしたり、保有資産が多岐にわたったりする場合は、複雑な遺言を作成することになりますので、弁護士など専門家に相談した方が安全です。
相続税は、いくらかかる?「基礎控除」をチェック
「どう分けるか」とともに、留意しておきたいのが相続税です。
相続税には「基礎控除」があり、基礎控除を超えた分に対して課税されます。
基礎控除の金額は、「3000万円+600万円×法定相続人の人数」です。
例えば、父・母・長男・次男の4人家族で、父が亡くなった場合、母・長男・次男の3人が「法定相続人」となります。よって、基礎控除は「3000万円+600万円×3=4800万円」となります。つまり、遺産が4800万円までなら相続税はかかりません。
基礎控除以外にも税負担の軽減措置があります。配偶者が遺産を相続する場合には1億6000万円以下、もしくは法定相続分以下(子どもがいる場合、2分の1以下)であれば、相続税はかかりません。これは、配偶者は財産をともに築いたり、維持してきた存在であること、配偶者を亡くした後の生活に配慮した特例です。平均的な年収の世帯であれば、配偶者の遺産相続には、相続税は発生しないケースが多いでしょう。
注意したいことは、相続税は、相続が発生してから10ヶ月以内に税務署に申告、納税する必要があるということです。1日でも遅れると延滞税がかかってしまいます。こうした側面からもやはり事前に話し合っておいた方が有利に相続を進められるでしょう。
上手な遺産の渡し方とは
遺産が基礎控除を超える可能性がある場合は、「生命保険」を使うのも1つの手です。
相続人が保険料を払っていた保険は「みなし相続財産」として相続税の対象となりますが、「500万円×法定相続人の人数」という控除が設けられています。法定相続人が配偶者と子ども2人であれば、500万円×3人=1500万円まで課税されません。
そのほか「生前贈与」という方法もあります。これは、文字通り生前に子や孫に資産を贈与して、相続財産を減らし、相続税を抑えるというものです。資産を贈与すれば「贈与税」がかかりますが、1人あたり年間110万円までの贈与は非課税。毎年110万円の範囲内でコツコツ財産を渡す方法もあります。
贈与を行う際は、「贈与契約書」を交わす、場合によっては110万円を少し超える額を贈与して贈与税を納めるなどの方法をとっておくと安心です。子どもの名義の口座に入金したものの、ご両親がその通帳を管理していると、実質的に親の財産だとみなされ、相続税がかかることがあります。あくまで、贈与された人が使用していることがポイントになります。
ただ、過度な生前贈与にも注意が必要です。当たり前ですが、この先どれくらい生きるか誰にも分かりません。家の改築や入院など思わぬ出費が必要になることもあるでしょう。
節税の面で「生前贈与」と「相続税」で、どちらが有利か悩んでいる方は、税理士などの専門家に相談すると良いでしょう。
執筆協力:ファイナンシャルライター 瀧 健