対米ドルで売り越しが大きいのは円と豪ドル

2021年は米金利上昇傾向が続く中で、全般的に米ドル高が進んだ。ただその中でも、通貨別の対米ドル・ポジションの状況は決して一様ではない。米ドルに対して大きく売られた通貨がある一方で、逆に買われている通貨もある。今回はCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋のポジションで、主要な通貨の対米ドル・ポジションの現状を確認してみる。

まず、主要な通貨の中で米ドルに対して足元で最も売り越しが大きいのは円。先週の段階で円の売り越しは10万枚程度に達していた(図表1参照)。では円は対米ドルで「売られ過ぎ」かというと、それは微妙だろう。代表的な低金利通貨の円は、売りポジションを長く維持しやすいと見られ、これまでも売り越しが10万枚を大きく上回ったケースはとくに珍しくなかった。以上のように見ると、すでにかなり売られてきた円ではあるが、円売りの限度については、日米金利差など他の要因も合わせて判断する必要がありそうだ。

【図表1】CFTC統計の投機筋の円ポジション (2015年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

そんな円に次いで、対米ドルでの大幅な売り越しが目立つのは豪ドルで、一時売り越しは9万枚近くに拡大した(図表2参照)。絶対値の比較では、上述の円の売り越しの方が大きいが、ただ9万枚近くまで拡大した豪ドルの売り越しは過去最高。つまり、最近にかけての米ドルに対する豪ドル売りは未踏の領域に達したということになるため、「売られ過ぎ」懸念は円より余程大きかったとも考えられる。豪ドルは10月以降、対米ドルでの反発が続いたが、「売られ過ぎ」の反動が一因だった可能性は考えられる。

【図表2】CFTC統計の投機筋の豪ドル・ポジション (2012年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

ユーロも、最近対米ドルで年初来の安値圏(米ドル高値圏)での推移となっている。ところが、対米ドルでのユーロ売り越しはまだまだ小幅に過ぎない(図表3参照)。ポジション的に見ると、ここまでのユーロ安・米ドル高は、大幅なユーロ買い越し、要するに「買われ過ぎ」の反動に伴うユーロ売り・米ドル買いによってもたらされたもので、その結果対米ドルではまだまだ小幅のユーロ売り越しにとどまっているということになる。こういったポジション状況の観点で見ると、米金利上昇に伴う米ドル買いが今後も続いた場合、ユーロの相対的な売り越し余地の大きさが注目される可能性はあるのかもしれない。

【図表3】CFTC統計の投機筋のユーロ・ポジション (2010年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

ところで、ユーロと同じ欧州通貨の英ポンドは、2021年は買い越し、売り越しへの転換を繰り返してきたが、足元では米ドルに対して小幅ながら買い越しとなっていた(図表4参照)。11月4日のBOE(イングランド銀行)金融政策会合をきっかけに英金利が大きく低下に向かうと英ポンドも急落となったが、対米ドルで英ポンド買いに傾斜していたことの反動も、英ポンド急落を後押しした可能性はありそうだ。

【図表4】CFTC統計の投機筋の英ポンド・ポジション (2010年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

オセアニア通貨でも、すでに見てきたように豪ドルが対米ドルで「売られ過ぎ」となっていたのに対し、NZドルは2021年おおむね買い越しが続くといった具合に対照的なポジション状況となっていた(図表5参照)。これには、NZが10月に利上げを行うなど、米国より利上げが先行しているのに対し、今のところ豪州の利上げは米国より遅いといった見通しになっているといった金融政策のスタンスの違いが反映されている可能性がありそうだ。

【図表5】CFTC統計の投機筋のNZドル・ポジション (2012年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成