米国で初めてビットコイン先物ETFが承認
2021年10月15日に米国で初めて、資産運用会社のプロシェアーズが申請していたビットコイン先物ETFが米国証券取引委員会(SEC)に承認された。
9月末に開催されたイベントでSECのゲンスラー委員長がビットコイン先物ETFの可能性に言及して以来、ビットコインはその期待とともに価格を伸ばしてきた。承認後の事実売りを懸念する声もみられたが、実際にはこの発表を受けてビットコインはBTC=684万円(60,000ドル)を突破し、その懸念は杞憂に終わった。
10月19日には承認された「プロシェアーズ・ビットコイン・ストラテジーETF(BITO)」がNY証券取引所(NYSE)に上場し、初日の取引高はETFとして歴代2番目となる10億ドル規模にまで達した。BITOの取引が活況となる中、同商品の連動指標であるシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)のビットコイン先物も取引高が増加した。これらを受けてビットコインは一時BTC=764万円(67,000ドル)付近まで高騰し、2021年4月以来およそ半年ぶりに史上最高値を更新した。
米国では、その後もヴァルキリーやヴァンエックが手がけるビットコイン先物ETFの承認が相次いでおり、再びビットコインへの投資熱が強まっている。
ビットコイン先物ETFの承認が市場に与える影響
2021年4月のコラムでは米国でビットコイン投資の手法が多様化する状況について述べた。その中で2月に北隣のカナダでビットコインの現物ETFが成立したことを受けて米国でも追随する動きが出るのではないかと期待が寄せられた。それからSECはビットコインの現物ETFについては投資家保護の環境整備が不十分であると否定的な見方を固持していたが、今回、先物ETFであれば商品先物規制の範囲で十分な投資家保護を実現することができるとの判断からそれを認めるに至った。
直近では「米国で初めてビットコイン(先物)ETFが実現した」という歴史的な事象を受けて思惑的な買いも広がっているが、通常、先物ETFは現物の購入を伴わないため、ビットコインの現物需給への影響は限定的と考えられる。
しかし、既存の証券口座から上場株式等のルールに従ってビットコインに投資できる手法が新たにできたことで、より多くの投資家が暗号資産市場に参入し、中長期的に現物価格にポジティブな影響が及ぶことが考えられる。ビットコインが先物ETFの原資産として認められたことは資産としての信頼性を示す象徴的な意味合いも大きい。
また、ビットコイン先物ETFの運用に問題がなければ、次はビットコイン現物ETFがSECに認められる可能性も高まるだろう。かつて金の価格が現物ETFの実現をきっかけに高騰したことから、ビットコインも現物ETFの実現が今後の材料として注目されている。
最近では米グレースケールが同社のビットコイン投資信託(GBTC)をETFに転換する申請を行った。GBTCは既に数多くの投資家を惹きつけており、資産運用額は400億ドルを超える。近い将来にこれが承認されることがあればさらなる上昇も期待できるかもしれない。
ビットコイン先物ETFによる上昇は年末まで続くのか
ここからはビットコイン先物ETFの取引開始を契機とした上昇が年末まで続くのかどうかについて考えたい。
現在の市場は、金融緩和や、先物ETFの取引開始に伴う市場参入、エルサルバドルなど新興国からの需要などに支えられている。さらに相場を動かす要因には以下のような点が考えられる。
暗号資産相場全体を押し上げる4つの要因
(1)ビットコイン現物ETFの進展
現在申請中のものが先物ETF承認後にどのように審査されるのか、といった点に注目である。近くではヴァンエック申請分の審査期限を11月14日に控え、その後も年内に数件の審査期限が続く。
(2)ビットコインの大型アップデート
「タップルート」と呼ばれるビットコインの大型アップグレードが11月16日頃に予定されており、過去「セグウィット」と呼ばれる仕様改善の際にも価格が上昇したことから、同様の思惑が集まる。
(3)ビッグプレイヤーの参入
再びテスラのような有名企業がビットコインを購入するなどの動きが出れば価格上昇につながるだろう。
(4)半減期アノマリー
過去2回の半減期でその翌年の年末にかけて大きく上昇していることから2013年末、2017年末に続いて2021年末もまたここからさらに大相場となるのかが注目される。
暗号資産相場全体を下げる3つの要因
(1)金融緩和策の転換
年内に米国でテーパリングが開始されると見込まれており、発表直後には一時的に暗号資産市場での売りが強まることは考えられる。ただし、テーパリングは、市場予想と実際の時期に大きな乖離がないことから相場への影響は比較的抑えられるだろう。当局者の発言によって利上げ時期の早期化が示唆された場合には下げが加速する恐れもある。
(2)規制強化
中国が暗号資産の禁止措置を発表した一方で、米国では暗号資産を禁止する方針はないとの姿勢が当局者より打ち出されたため、その懸念は和らいでいる。中国の規制によって一時は不安定化していたマイニングについても、今では米国がその取引の中心地となり、ハッシュレートも回復している。ステーブルコインなど規制が未整備の分野で米国の姿勢が厳格化するかどうかが焦点になりそうだ。
(3)期待の剥落
押し上げる要因で解説したビットコイン現物ETFの進展やビッグプレイヤーの期待とは逆の動きで米国における現物ETFの謝絶や、マイクロストラテジーなど大口保有者によるビットコインの売却などによって期待が剥落した際には売りが強まるだろう。
その他にもDeFiやNFT関連銘柄をはじめとするアルトコインブーム後の急落や、大きなハッキング事件などには引き続き警戒が必要である。
このように年末までの材料を整理すると上昇余地はまだあると言えるのかもしれない。2021年も残り2ヶ月となったが、ビットコインはどのようなドラマを最後に魅せるのだろうか。