原稿執筆時点でいうと、本日10月29日に関西スーパー(9919)の臨時株主総会が行われます。阪急百貨店などを展開するH2Oリテイリング(8242)による、H2O子会社との合併形式での統合が諮られます。このH2Oの買収案に、首都圏の食品スーパー、オーケーが反対を示したことでこの臨時株主総会は特に注目を集めることとなりました。これまでの経緯は以下の記事に詳しく書いていますので、まずはそちらをご参照ください。
H2O・オーケーの関西スーパー買収合戦、注目ポイント・売買判断は?(2021年10月8日)
H2O・関西スーパーの統合案に逆風、注目すべきポイントは?(2021年10月19日)
さて、上記の記事でも書いたように大株主を含む機関投資家も質問状を送るような買収劇のなかで、買収を進めるH2Oと反対するオーケーは取材などにも応じており、様々な発言をしています。これは関西スーパーの株主の多くを占める個人投資家に対するメッセージでもあるように思います。また、おそらく関西ではオーケー自体を知らない人も多いからでしょう。在阪メディアはオーケー自体の紹介もしています。その紹介や両社の言い分を読んでみましょう。
オーケー社長、「いつ来ても安い」実現の裏側・関西スーパーとのつながりをPR
まず、大阪の放送局である毎日放送(MBS)が「よんチャンTV」という番組でオーケーについて取り上げているので、その取り上げ方を見てみましょう。「よんチャン」は関西でのMBSのチャンネル「4」、と同社キャラクター「らいよんチャン」に由来しているようです。「よんチャンTV」は午後から夕方にかけて放送されている報道・情報バラエティ番組で、ワイドショーのようなものを想像いただくと良いかと思います。関西圏で、主婦層などが見やすい時間帯であることから、関西スーパーやオーケーの主要利用層でオーケーのことを知らない関西在住者向けに編集されているようです。
同番組では、関西スーパーを巡る買収合戦を紹介した上で、首都圏で人気のスーパーとしてオーケーを取り上げています。「オーケーは関西人に受け入れられるのか」と問いかけており、H2O陣営が強みとしている関西圏での同社の実績(裏を返せばオーケーの実績のなさ)を問うていると言ってもよさそうです。その中で、オーケーの横浜の店を取り上げており、国産若鶏むね肉が1kg379円、おにぎりが1個49円、大きいサイズのお弁当が全部291円など(筆者は若鶏むね肉の価格はよくわからないのですが…)、お買い得・破格と言える商品が紹介されていました。お弁当はおかずの量も十分でおいしそうに見えました。
オーケーの来店客にも取材しており、「食材が新鮮で価格も安いので大量に買っている」というようなコメントが紹介されていました。遠方からでも来店する価値があるとのことです。その後、オーケーの社長がインタビューで、同社の価格は競合店をチェックして、競合店対抗値下げを行っていること、値下げのために商品を絞ってメーカー側と大量販売を約束していること、契約農家と提携して上質な肉を提供していることなどを説明していました。
また、興味深いのは刺身で、大葉やツマを除くことで安くしている(ツマは別売り)とのことです。飲料の常温販売による冷却コストの節約にも触れ、そのような仕組みづくりによって同社がポリシーとする「Everyday Low Price」を実現しているとしています。先ほど説明した商品の価格も特に「セール」ではなく、「いつ来ても安い」を実現しているようです。
そして、番組ではオーケーがかつて関西スーパーから学んだことが紹介されていました。関西スーパーは米国に学んだスーパー業界のパイオニアの1社で、オーケーもその関西スーパーから学ぶべく研修として社員を派遣していたとのことです。派遣された1人が「魚の切り方、お肉の切り方、野菜の並べ方について一品ずつ教えてもらい、(関西スーパーは)先生で、足を向けて寝られない」と語ります。オーケーが関西圏に少なくないスーパーの中で関西スーパーにアプローチするのは、このような過去のつながりもあるとオーケーの説明を締めています。全体的にオーケーに対し好意的な紹介のように思われます。
東京商工リサーチではオーケー社長へのインタビューを行っていました。その中でもオーケー社長は「我々は1980年~85年の間、当時業界内でも最先端を走っていた関西スーパーに店舗運営のノウハウなどを学ばせていただいた」と、かつてのつながりをまず挙げています。その上で、買収提案を行い、関西スーパー側の役員は買付価格について非常に高い評価をし、買収に向けて協議を重ねれば前向きに進められると思うような提案があったと説明しています。しかし、その後、実質的な協議は拒まれたとのことです。オーケー社長はこれをH2Oの提案があったからだと感じているとのことです。
その上で、関西スーパーが発表したオーケーの提案への見解にオーケーに対する批判とも取れるような文言が多いことに対して、協議がない中で「あそこまで書かれて・・・」としています。また、H2O、オーケーの提案について検討した関西スーパーの特別委員会が「オーケーはディスカウンター」と述べ、暗い倉庫店舗の中で営業をしているようなイメージで語られたので、特別委員会を先ほどの番組が取材していたオーケーの横浜の店舗を視察してもらったそうです。
視察によってイメージが変わったようですが、その後の特別委員会の結果説明ではオーケーの惣菜で一番売れているカツ重について「年齢層が高めの関西スーパーのお客さまにとって量がちょっと多い」と指摘されました。視察時に言ってもらえればミニサイズがあることも説明できたし、そのサイズをもって「顧客層が違う」という説明にガッカリしたとのことです。
その他、関西スーパーがH2Oとの統合を発表したときの株価の動きやオーケーの買付価額、関西スーパーとH2Oの事業計画への質問など、これまでオーケーが会社として説明していたようなことが語られています。これらへの見解はその後、関西スーパーも回答しています。
H2O副社長、「オーケーの考えには誤解がある」
一方、H2O側では副社長が東洋経済のインタビューに応えています。タイトルは「関西スーパー争奪戦、オーケーにH2O幹部が大反論」と、なかなか刺激的です。なお、この副社長は統合後の関西スーパーの社長に就任する予定です。
副社長は株主総会の招集通知などを出したので、説明する条件が整ったと前置きをした上で、オーケーの考えに誤解があるとしています。その誤解は、オーケーが関西スーパーと統合予定のH2O傘下のスーパー、イズミヤ・阪急オアシスのことを、赤字で全くダメな会社と認識していることだと言います。両社はスーパー事業としては営業利益を出しており、直近で構造改革を行ったためその時期の赤字をもって、オーケーは両社を判断していると指摘しています。
そして、オーケーが統合後の新関西スーパーの業績改善計画に疑義を呈しているのに対し、従来のやり方に問題があったが、それは伸びしろとも言えるとした上で、イズミヤと阪急オアシスで500以上の改善施策を積み上げておりテスト中である、関西スーパーが加われば事業計画の実現性は高いとのことです。オーケーの業績が爆発に伸びた実績は認めながらも、H2O側が目指している価値はそう簡単にできるものではなく5年かけて企業価値を作るとのことです。
また、オーケーとの考え方の違いについて、ディスカウント業態は立派な業態であり、「低価格」という価値は素晴らしいとするものの、イズミヤ・阪急オアシス・関西スーパー3社がお客様の嗜好に合わせた品揃えと価格帯で対応し、地域やお客様と密接に関わり合いながら、食生活をトータルでソリューションしていくことを目指しているそうです。その中で考えられる品揃えはオーケーの単品量販型とは異なり、価格だけではない価値を提供したいという意向を示しています。
H2Oと関西スーパーの経営統合については、オーケーの買収提案によりそれが早まったことを認めており、株主総会について、取引先株主からは賛成に近い判断が多く、H2O側の事業計画は実現性が高いと理解してもらっているとしています。そのような取引先はオーケーの提案は仮定の話であり、それに基づく判断はどうだろうと考えていると説明しています。
個人投資家が着目すべきポイントは
これまでの記事でも両社の意見を取り上げてきましたが、改めて両社の経営陣のインタビューやオーケーの説明なども出てきているので、詳しく解説しました。個人投資家にとって重要なことは、このような判断が株主にとって最善の形で決められることだと思います。つまり、今回の場合でいうと、関西スーパーの経営陣が関西スーパー株主にとって最善の判断をすることが重要と言えるでしょう。
もちろん、株主の中には関西スーパーと利害関係のある方もいます。H2Oやオーケーも株主なのでそれは最たるものですし、従業員や取引先も株主に多いです。一方で、関西スーパーは株式を公開しており、誰でも株式を買えます。大株主にはなり得ない個人株主にも門戸を開いています。株主は平等に取り扱われるべきですし、経営陣は小口の株主も含めて利益を最大化するように進める必要があります。
今回の判断は、大株主の一角であるオーケーが具体的な買付価額を提示した上で真っ向から反対し、他の大株主も質問状を送るような買収劇になったわけです。経営陣が株主の期待する努めを果たしたかは、疑問を持たざるを得ないのかなと思います。
今回の事例は有力な反対株主がおり、株主総会を経ての決定となっています。さらに、一連の記事でご紹介したようにこれだけ材料があがっているので、個人投資家の方々も話が理解しやすかったのではないかと思います。望むらくは、このようなことが通常になり、経営陣がより緊張感を持ち、より株主の利益を考えるようになってほしいと思います。