港湾は日本の生命線

日本は四方を海に囲まれ、国民生活や産業活動の多くを沿岸部で展開しています。このための物資の補給路となる港湾はまさに島国日本の生命線となっています。自然災害が激甚化する中で、港湾近辺の人々および産業・物流を守るための防災・減災機能の強化が課題となっています。

港湾は日本の輸出入貨物の99%を占める貿易の要衝となっています。地震や豪雨などの災害時でも、緊急物資の輸送や生活支援といった物流維持で重要な役割を果たしてきました。こうした港湾の役割を踏まえ、今後も大規模な自然災害の発生に備えるため、事前対策で人命を守り被害を最小化する必要があります。自然災害などの有事に備え、国民の暮らしを支える海上交通網を維持し、経済活動を支えるサプライチェーン(供給網)への影響を抑制するための港湾整備の重要性が増しています。

政府が2019年に公表した南海トラフ地震の被害想定によると、地震や液状化、津波による浸水および火災などにより、被害額は陸側で約170兆円、このうち港湾関連の被害は3兆円以上に及ぶとされています。特に港湾機能停止による経済活動の損失額は約20兆円が見込まれています。自然災害によって東京湾、伊勢湾、大阪湾など経済活動を支える主要な港湾が被災すれば、被災地域だけでなく日本全体の産業・物流活動にも甚大な影響が懸念されます。 

2021年度から始まった「防災・減災、国土強靱化のための5ヶ年加速化対策」は、港湾施設の耐震・耐津波化や老朽化対策なども重点課題として挙げています。国土交通省は社会インフラの老朽化が今後数十年でさらに進むとみており、建設後50年以上経過する社会資本の割合は港湾岸壁が2023年に約32%、33年に約58%に達すると試算しています。災害発生前の予防対策としても港湾機能の強化や老朽化対策が重要となっています。

マリコンが港湾整備の急先鋒

マリコンはマリンコントラクターの略で、港湾・護岸工事、海外トンネル工事などの海洋土木に特化した建設会社を指します。陸上建設を得意とするゼネコンは大手から中堅までを含めると競合企業が多数存在しますが、マリコン業界は五洋建設(1893)、東亜建設工業(1885)、東洋建設(1890)の大手3社が受注の多くを占めており、建設業の中でも競争が比較的少なく安定した収益が期待できることが特徴といえます。 

マリコンが港湾整備などで果たす役割は大きく、政府が進める国土強靭化でも活躍が期待されます。台風や津波など海から自然災害を受けることの多い日本にとって、沿岸部の防災・減災の機能を強化するためにマリコンが手掛ける海上土木の技術は必須といえます。菅義偉前首相が退陣を表明した9月3日以降でみるとマリコン3社の株価は軒並み上昇し、新政権の公共事業を含めた経済対策への期待感を材料視している可能性も高そうです。マリコンが中心に手掛ける海洋土木の分野は多くの工事が官公庁案件で、業績に占める割合が高いことも株価の追い風になっていると考えられます。

【図表】菅前首相の退陣表明以降のマリコン大手3社株価とチャート
 
出所:株式会社QUICK作成(2021年10月8日時点)

五洋建設の土木売上高はスーパーゼネコンに迫る勢いに

五洋建設はマリコンの中で最も売り上げ規模が大きく、海外を含めた土木分野の売上高はスーパーゼネコン(※)に迫っています。東亜建設工業や東洋建設は独自の技術力などが受注につながっており、業績は好調に推移しています。 

世界的に脱炭素の機運が高まる中でマリコンは洋上風力発電の分野でも受注の期待感が高まっています。国土強靭化や洋上風力発電の双方で恩恵を受ける「国策関連銘柄」として、ますます注目が集まるかもしれません。

(※)スーパーゼネコン

ゼネコンはゼネラルコントラクターの略で、工事一式を請け負って全体の取りまとめを担いつつ、設計・施工・研究なども自社で手掛ける総合建設業者。中でも大成建設(1801)、大林組(1802)、清水建設(1803)、鹿島建設(1812)、竹中工務店(非上場)など売上高が1兆円を超えるスーパーゼネコンと称される。

ご参考前回記事:国土交通省の試算で見る、新政権下でのスーパーゼネコンの恩恵