ファーツリー・パートナーズ(以下、ファーツリー)は米ニューヨークに本社を置くアクティビストで、1994年に設立されました。世界中の企業を投資対象としており、日本企業にも投資しています。ただ、大量保有報告書で保有比率が5%を超えたのはJR九州(9142)が初めてです。
この記事では、ファーツリーがJR九州に行った株主提案と、JR九州の対応によって明るみになった日本のコーポレートガバナンスの問題点ついて解説します。
JR九州、ファーツリーの株主提案を否決後、自社株買いを発表
ファーツリーは、JR九州が2016年に株式を上場したときから投資している大株主でした。同社は2019年6月の株主総会で720億円を上限とする自社株買いなどを提案しましたが、この総会では否決されていました。しかし、その後(同年)11月にJR九州は、2020年3月までに100億円を上限とする自社株買いを実施すると発表しました。ファーツリーの当初の提案に対し、JR九州が歩み寄りを見せたと考えられます。
翌年に株主提案を行うも、また否決
ファーツリーは、翌年(2020年)にも株主提案を行いました。その内容はJR九州が保有する不動産に係る収益やNOI(営業純利益)、EVITDAなどの開示と、不動産投資などに詳しい社外取締役3名の選任を求めるものでした。
ファーツリーは、JR九州の資本効率が悪いことや不動産事業の不透明性に対して不満を持っていたようです。しかし、JR九州は個別不動産の情報開示は行わないとし、これらの提案は否決されました。
ファーツリー、JR九州株を一部売却
その後、ファーツリーはJR九州の株式を一部売却しました。共同保有分を含めた保有比率は、2020年7月27日時点で3.06%となり、前回報告時点の6.10%からほぼ半減したのです。
ファーツリーはJR九州を売却した理由を明らかにしていませんが、2年連続で株主提案が否決されたことの影響もあったのではないかと思います。
JR4社による株式持ち合い強化
2020年6月26日付の日本経済新聞の記事によると「2020年3月期にJR東日本とJR東海、JR西日本、JR九州が互いの株式を追加していた。それぞれの保有数は2019年3月末比で1.8~3.6倍になった。発行済み株式数(3月末時点)に占める割合はそれぞれ0.2~1%程度。JR九州株の保有は他の3社とも1%を超えた。」とのことです。
同記事では「JR4社は株式持ち合いを拡大した理由を災害対策や技術開発の情報交換、鉄道とほかの交通機関を組み合わせて効率的な移動を目指す「MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)」の強化などと説明する。」としています。
一方で、JR4社による株式持ち合い強化はファーツリーへの対応ではないかという見方もあるようです。
JR各社は2016年3月までの資本関係はわずかでしたが、JR九州が上場した2017年から株式の持ち合いを始めました。ただ、2019年3月期までの追加取得はなく、保有比率は0.05~0.4%程度でした。日本版コーポレートガバナンス・コードの原則によって、政策保有株を売却して株式の持ち合いを解消する企業が増えるなか、JR4社は逆に株式持ち合いを強化していたのです。
なぜ2019年度中に株式の持ち合いを強化しなければいけなかったという理由については、明らかになっていません。2019年はファーツリーから取締役専任などの株主提案を受けており、その対応として持ち合いを増やした可能性が高いと考えられます。
明らかになったコーポレートガバナンスの問題
政策保有株とは、純粋な投資目的以外で企業が保有する株式のことです。その代表が、日本企業特有の慣習として続いてきた「株式持ち合い」です。取引先や金融機関などの株式をお互いに保有し合い、経営の安定化を図るのが目的です。
しかし、株式持ち合いは健全なガバナンス(企業統治)を阻害します。そこで、東京証券取引所と金融庁が2015年に公表した「コーポレートガバナンス・コード」では、上場企業に対して政策保有株を保有する目的についての説明を求め、原則として政策保有株の縮減を求めています。
ただ、JR九州は政策保有株の動向が記載された有価証券報告書を株主総会の前に開示していませんでした。ファーツリーは2019年、2020年の株主総会でJR九州に対して資本効率の向上を求める株主提案を行いました。
しかし、JR九州は株式持ち合いによって資本効率を悪化させていたのではないかと思います。議決権行使助言会社であるグラスルイスやISSは、政策保有株に対して否定的な見方をしています。もし株主総会前にJR九州が株式持ち合いを強化していたことが明らかになったら、ファーツリーの株主提案により多くの機関投資家が賛同していたかもしれません。
ファーツリーのJR九州に対する株主提案は、日本のコーポレートガバナンスの問題点を明らかにしたという点で、大きな意味があったと考えられます。経営陣は保身に走るのではなく、アクティビストを含めた株主の提案や指摘事項に対して誠実に対応し、企業価値を高める努力をすることが、今後より求められると思います。