みなさん、こんにちは。自民党総裁選の決着以降、株式市場は一気にダレて来ました。
既に衆議院解散はスケジュールに入っており、「選挙は買い」という経験則がここでも機能してもおかしくない状況ですが、自民党総裁選でかなりその期待を先食いしたこと、そして岸田新総理率いる新政権への失望感がその背景にあると考えます。
その始動速度や内閣人事などを見る限り、調整型宰相の域は超えず、その指導力に疑問が生じたというところなのでしょう。中国不動産のバブル崩壊懸念といった悪材料もありますが、このダレ方はやはり新政権への期待剥落と捉えるべきと位置付けます。
株式投資の視点で考える新政権の経済政策
そこで今回は、その「新政権の経済対策」をテーマに採り上げてみましょう。先日、自民党総裁戦を制した岸田氏が臨時国会で首班指名を受け、第100代内閣総理大臣に選出されました。
岸田新総理は組閣の後、来週10月14日にも衆議院を解散する意向との報道がなされています。今後は総選挙を通じて新政権の信を国民に問うことになるわけです。
総選挙の結果は分かりませんが、今回は政権交代が起こらないということを前提に、新政権の経済対策を株式投資という観点で考えて見ましょう。
岸田新政権が掲げる3つの経済政策
岸田新総理の主たる経済政策は、数十兆円規模の追加経済対策といった積極財政、令和版所得倍増計画に基づく格差是正、デジタル田園都市国家構想、の3つと言えるでしょう。
このうち、デジタル化構想に関しては、菅前政権下でデジタル庁が発足済みであり、この流れをさらに加速させるというものだと推察されます。株式投資という観点では既にある程度は市場に織り込まれてしまっている内容と言えるかもしれません。
すると、積極財政と格差是正が、当面の株式市場の注目点になっていくと予想します。特に、岸田氏はこれまでどちらかというと緊縮財政を志向していたと認識されていたため、このスタンスの変化は金融市場にも実は相応のインパクトがあるものと考えます。
一方、格差是正に関しては、お手並み拝見というところでしょう。最も気になるのは、所得倍増計画で時間軸が明記されていないことです。
正しい判断のヒントは時間軸が明示されているか
以前のコラムで「銘柄推薦などが溢れる投資記事の中で「信頼に足る」情報を見分けるには、時間軸の捉え方が大事」という視点を示したことがあります。
時間軸が明示されていなければ「いつかは上がるし、いつかは下がる」ため、「記事の的中率」を嵩上げすることができるからです。
これはこれで論理的には正しいのですが、投資という観点からは直接的に役立つ情報とは言い難いでしょう。同様に、所得倍増構想も時間軸が示されていない以上、現時点では評価し難い、というのが実状と考えます。
円安の動きやインフラ投資関連に注目
積極財政政策によりまず考えられるのは、円安です。既に欧米では金融緩和政策の縮小(テーパリング)がスケジュールに入ってくるなど、市場の流れは引き締め方向へ向き始めています。中国も不動産バブルの退治に向けて融資の「総量規制」を始めています。
コロナ禍において、当初より流動性確保のために市場へ資金を大量に供給して来ましたが、もはやその段階は明らかに転換点を迎えているのです。
日本の積極財政継続はそれとは対照的な動きにあると言えるでしょう。当然、それに伴って発生する金利差の拡大は円安要因となります。為替の決定要因は他にも多々あるため、決め打ちは非常に大きなリスクとなりますが、少なくともファンダメンタルズは円安要因に振れていると考えると、円安メリット企業は要注目と位置付けます。
ただし、かつての円安メリット企業と言えば自動車メーカーなどでしたが、これらは半導体の調達不足から減産を余儀なくされています。すると、そういった加工産業よりもドル建て製品を手がける素材・市況産業の方が円安メリットをフルに享受できる状況にあるのでは、と考えます。
格差是正に関しては、インフラ投資関連に注目しています。実際問題として、労働分配率の引き上げは安倍政権時代からかなり推し進められてきたものの、その内実はあまり進みませんでした。対象が民間企業である以上、政府の思惑通りにはいかない部分も多かったのでしょう。とすれば、実際にどのように分配を進めていくのかは知恵の出しどころになります。
私は公共インフラの拡充を通じて全国民の生活水準引上げ推進が当面の格差是正戦略になるものと想像します。防災対策もその範疇に含めて考えれば、異常気象の頻発する昨今、災害によって発生してしまう地域間格差の是正にも繋がるはずです。
国内における道路や橋なども、建設から数十年を経て、老朽化リスクが深刻化しているという状況もあります。国土強靭化が指摘されて久しいですが、経済対策という側面もあることを考えれば、さらにそれを加速させる可能性は高いと予想します。
岸田新総理に対する諸外国の評価は、調整型宰相であり革新性に欠けるとして、現時点ではやや辛口のものが多いように感じます。株式市場の反応も現状はその通りとなっています。しかし、最初の評価が低いというのは決して悪いことではありません。投資家のメンタリティの典型かもしれませんが、「これ以上の悪材料はない」状況の方が上昇・改善余地は大きいのですから。