NFTブームはこの半年で大きく変化している
ノンファンジブルトークン(以下、NFT)の概要については3月のコラムで述べたが、それから半年が経ち、NFTブームの中でもトレンドに変化が生まれているようだ。
初期の頃にはビープル(Beeple)というアーティストのデジタルアートがオークションにて約75億円もの価格で落札されたことが話題となった。これまでデジタル上では表現することが難しかったアート特有の性質、例えば作品の背景や1点ものの価値がNFTによって表現された。
このようなデジタルアート×NFTの動きは今でも続いているが、新しくブームとなっているのが数量限定でコレクション性を備えたデジタルキャラクターたちの作品である。
クリプトパンクス(Cryptopunks)というピクセル画の作品は10,000個のキャラクターが存在する。現状では安価なものでは、数百万円から希少価値の高いものでは数十億円で売買されているものもあるようだ。大手決済企業ビザ(VISA)がそのうちの1つを購入したことでも話題となった。
また、ボアード・エイプ・ヨット・クラブ(Bored Ape Yacht Club)は退屈そうな猿のキャラクターをモチーフとしたNFTコレクションで、全体10,000個のうち101個がまとめてオークションに出品され、約27億円もの価格で落札された。
これらのコレクション×NFTは1枚1枚のキャラクターとしての魅力に加えて、保有者だけが参加できるコミュニティとしての魅力も多くの暗号資産投資家を惹きつけている。実際に暗号資産界隈では人気のディスコード(Discord)などのSNSには保有者だけが参加できるグループが存在している。また、ツイッター(Twitter)などのSNSでは保有するキャラクターを自分のアイコンにすることによってコミュニティの参加者であることを示すような動きも出ている。
この他にもフォートナイトのようなメタバース(仮想空間)上のアイテムをNFT化する動きがある他、ルイ・ヴィトン(LouisVuitton)やグッチ(Gucci)、バーバリー(Burberry)などの高級ファッションブランドはデジタルファッションにおけるNFTの活用を模索している。
特異なところではルート(Loot)と呼ばれるテキストベースのNFTも人気を集めており、それぞれのテキストの属性に合わせて開発者がコンテンツを自由に作成することによって、コミュニティ主導のルート経済圏が出来上がっていくことが期待されている。
NFTブームの調整なのか、それとも終わりなのか
ビットコインは1BTC=350万円を一時は割り込んでいたが、8月に入ってからは上述したようなNFTブームとともに価格を伸ばしてきた。
業界最大手のNFTマーケットプレイスであるオープンシー(Opensea)の日次取引高の推移を見ると、確かに8月には日次取引高が月初から3倍以上となる3億ドルにまで膨らんでいることが確認できる。しかし、9月に入ると取引高が大きく落ち込み、それに少し遅れる形でビットコインの価格も大きく下落していることがわかる。
果たしてこれは一時的な調整なのか、それともNFTブームの終わりを告げるものなのだろうか。9月にはオープンシーにおいてバグをきっかけとした資産の消失が起こり、国内においてもNFTマーケットプレイスを運営するナナクサ(nanakusa)で外部攻撃による資産の流出事件が起きた。これまでと同じく取引所を原因とした事件ではあったが、NFT関連ではほとんど初めての事件であったために、8月の盛り上がりから一転して市場ではNFTに対する不安が広がっている。
しかし、別の指標で見るとNFTへの関心は継続しているようにも見える。NFTの日次売買数ではビットコインの大幅下落時に落ち込んだものの9月後半にかけては再び上昇傾向にある(図表2)。また、NFT関連の日次アクティブウォレット数(1日に1度でもNFTを売買したウォレットの数)ではビットコインの値動きに関係なく右肩上がりとなっている(図表3)。9月のNFT関連ニュースを見ても、クリスティーズ(Christies)におけるNFTオークションや、マスターカード(Mastercard)によるNFT発行など話題に事欠くことがない。
2021年に入ってから市場が急拡大している分散型金融(以下、DeFi)においても、5月にビットコインの暴落を経験して、なお現在も取引が活況を呈している。NFTも同様に過熱後の調整を乗り越えて取引が続いていくのかもしれない。
中国の規制リスクも高まる中、ビットコイン相場の今後は?
このようにNFTブームの変化と落ち着きを見た上で、最後に9月のビットコイン相場の振り返りと今後について述べていこう。
2021年9月はNFTの勢いが失われつつある中でビットコインは下落基調に転じた。9月7日にはエルサルバドルにおいてビットコインを法定通貨として認める「ビットコイン法」が施行されたが、当日にはウォレットやATMにおけるトラブルが発生し、セルザファクト(sell the fact)が意識されたこともあって急落した。
その後は米マイクロストラテジー(MSTR)によるビットコインの追加購入や、大手金融機関および著名投資家による暗号資産関連のポジティブな動きを受けて一時は回復に向かった。しかし、9月20日には中国恒大集団の過剰債務問題の波及に対する懸念から株式市場が大きく下落し、ビットコインも同様に急落した。
ネガティブな雰囲気が市場に広がる中でさらに9月24日には中国人民銀行が暗号資産の禁止措置を改めて厳格化する方針を打ち出した。今回は中国国内における取引所やマイニングなどの事業者に対する規制だけではなく、中国国民に暗号資産関連のサービスを提供する海外事業者に対する取り締まりについても言及された。これを受けてバイナンス(Binance)やフォビ(Huobi)といった大手取引所グループは中国向けのサービスを停止する方針を発表し、その他の暗号資産関連業者への影響も広がっている。
また、中国における暗号資産禁止措置に加えて、韓国では暗号資産取引所の登録制が正式にスタートし、米国においてもゲンスラー米証券取引委員会(SEC)委員長の暗号資産規制に関する発言が目立つようになっている。直近では米中韓をはじめとする各国の暗号資産規制が相場の重石となるだろう。中国における不動産業者の債務問題や米国におけるテーパリング開始時期など金融市場全体における懸念についても引き続き注視が必要である。
今のところは、一時期よりは上がったとはいえ依然歴史的には低い金利環境が継続していることや、欧米を中心に暗号資産プレイヤーおよびサービスの拡大が続いていることがビットコイン相場を下支えしている。しかし、NFTも一時期の勢いが沈静化する中では、短期的にはやや向かい風ムードとなっている。