世界の株価の上昇基調が続いています。この原稿を書いている9月7日の午前中には、一時的に日経平均株価が5ヶ月ぶりに3万円の大台を回復しました。また、米国株においても各指数が高値更新を繰り返しています。

世界的な株高の下支え要因はFRBの金融政策

世界の株式市場の株価を下支えしているのは、米国の金融政策であると考えています。

米連邦準備制度理事会(FRB)は8月、テーパリングと呼ばれる資産拡大ペースの縮小を開始する可能性について言及しました。FRBが買い入れている米国債や住宅ローン担保証券の購入ペースを落としていくことになります。

テーパリングが始まったとしても、政策金利の引き上げにはまだ時間がかかり、伝統的な金融引き締めが行われなければ、市場金利への影響は限定的という認識です。

更に、FRBは雇用拡大をインフレ抑制より重視しています。パウエルFRB議長の発言は一貫して、インフレよりも雇用拡大に重点を置く政策スタンスを示しています。

そうした中、9月3日に発表された米雇用統計(8月分)が市場予想よりも大幅に下回ったことから、FRBはテーパリングを急がず引き続き株式投資家に良好な投資環境を提供してくれる、と市場においては考えられています。

投資家の過剰なリスク選好が懸念材料

このような環境の中で、株価上昇の継続から新たな個人投資家のマーケットへの参入が増えているのではないでしょうか。

日本では2019年にはいわゆる「年金2,000万円問題」をきっかけに投資に対する関心が高まりました。また、2020年より新型コロナウイルス感染症の拡大影響のため自宅等で過ごす時間が増えたことからネット証券等に新規口座を開設し、株式投資を始める人が増えてきているようです。

また株式だけではなく、不動産や暗号資産といったリスク資産にも資金が流入し、以前よりも価格上昇をもたらしています。

このような資金流入により、現状において私にはマーケットが過熱気味になっているように見えます。

米国では米国のETFマーケットでも異変が起こっています。2021年8月には象徴的なニュースとして、「2020年にアクティブ型ETFの上場数がインデックス型を逆転し、2021年はさらにアクティブ型が増えている」と報じられていました。これは、銘柄選択で高いリターンを狙う動きが強まっていることを示しています。

日経新聞の記事によると特に、テクノロジー株の特定銘柄に集中投資することで知られるアーク・インベストメント・マネジメントが運用しているファンドなどに資金が流入していたようです。

アーク・インベストメント・マネジメントは、著名CEOのキャシー・ウッド氏がハイテク株式を大胆に組み入れて高い運用成績を上げてきた米国のハイテク株式投資の象徴のような存在です。

このアーク・インベストメント・マネジメントは、個人投資家への情報発信を積極的に行っているため、個人投資家がETFの運用方針を参考に追随し、銘柄を集中させ、短期間で値上がりを狙う投機的な動きがマーケットの不安定要因となっている場合があります。

しかし、私は投資未経験者や初心者が集中投資で過剰なリスクを取るのは避けたほうがよいのではないかと考えています。

見方が分かれるプロの相場感

株価の高値警戒感から、プロの投資家のマーケットに対する見方も分かれています。

テクノロジー企業への集中投資を行うアーク・インベストメント・マネジメントとは真逆で、マーケットの下落時にポジションを取っている投資家もいます。

米国の運用会社サイオン・アセット・マネジメントの動きです。

サイオン・アセット・マネジメントを運営するマイケル・バーリ氏は、かつてベストセラーとなったマイケル・ルイス著のノンフィクション『世紀の空売り(The Big Short)』のモデルとして、一躍有名になった投資家です。

同社は、アーク・インベストメント・マネジメントの旗艦ファンド「アーク・イノベーションETF」のプットオプションやイーロン・マスク氏率いるテスラ株のプットオプションも保有していたそうです。

サイオン・アセット・マネジメントは、サブプライムローン崩壊時と同じように、今回は一部のハイテク企業の株価が割高であると考え、その暴落に賭けているのです。

さらに、別の運用会社であるタトル・キャピタル・マネジメントは、アーク・イノベーションETFの正反対に連動する「ザ・ショート・アーク ETF(SARK)」を設定しています。こちらもアーク・インベストメント・マネジメントの運用に懐疑的な見方をする投資家のニーズを取り込もうとしています。

これらの動きは、強気一辺倒で上昇してきた米国株に慎重な見方も出てきたことを示しているのではないでしょうか。

楽観視され過ぎているように見える世界の株式市場ですが、これからどうなるのか。過剰な楽観は禁物だと思います。

「強気相場は、悲観の中に生まれ、懐疑の中に育ち、楽観の中で成熟し、幸福感の中で消えていく」という有名な投資の格言があります。

個人的にはアセットアロケーションにおける株式の比率を少し下げ、ディフェンシブなポートフォリオにしていくつもりです。