米金利と米ドル/円について

3日発表の米8月雇用統計では、注目のNFP(非農業部門雇用者数)が予想を大きく下回る、いわゆる「ネガティブ・サプライズ」となりました。これを受けて、「テーパリング」と呼ばれる米金融緩和の縮小開始について、最短シナリオである9月FOMC(米連邦公開市場委員会)での決定の可能性はほぼなくなったとの見方が広がりました。

こういった中で、米ドルはほぼ全面安となり、米ドル/円も一時109円半ばまで下落しました。では米ドルはどこまで下落するのか。結論的に言うと、米ドルの下落は限定的にとどまる可能性が高いのではないかと考えています。

そう考える理由の1つは、米ドルと相関性の高い米金利は、低下が限られそうだということです。たとえば、3日の雇用統計発表後、米10年債利回りはむしろ上昇し、この結果日米10年債利回り差米ドル優位は拡大となりました(図表1参照)。なぜ、米10年債利回りは、NFPの「ネガティブ・サプライズ」を受けて、早期テーパリング観測が後退する中でも上昇となったのでしょうか。

【図表1】米ドル/円と日米金利差 (2021年7月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

10年債利回りの90日MA(移動平均線)からのかい離率はマイナス10%近くまで拡大していますが、これは経験的には「下がり過ぎ」気味の可能性を示しています(図表2参照)。このように、すでに「下がり過ぎ」気味となっていることから、一般的に金利低下要因と見られた材料に対しても素直な反応とならなかった可能性は考えられるでしょう。

【図表2】米10年債利回りの90日MAからのかい離率 (2010年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

基本的に金融政策を反映するのは2年債利回りですが、では米2年債利回りは早期テーパリング観測後退を受けて一段の低下に向かうかと言えば、それも懐疑的でしょう。

米2年債利回りは、足元で0.2%程度での推移となっています。本来的に、早期テーパリング開始を織り込むなら、経験的にはゼロ金利政策の管理上限、0.25%を上回っているのが基本ですが、そうではありませんでした(図表3参照)。要するに、早期テーパリング開始を織り込んだ動きになっていなかったわけですから、その可能性後退に伴う米2年債利回り低下も、自ずと限られるでしょう。

【図表3】米2年債利回りの推移 (2021年1月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

また、今回の雇用統計の結果を受けて、9月FOMCでのテーパリング開始決定の可能性はほぼなくなったとの見方が基本のようですが、一方で、11月ないし12月といった年内のFOMCでのテーパリング開始決定はなお有力と見られているようです。そうであれば、金融政策を反映する米2年債利回り低下余地はやはり限られるのではないでしょうか。

以上見てきたように、米金利低下が限られるなら、その影響を受ける米ドルも、下落は限られるでしょう。ちなみに、米ドル/円は、109~110円半ばを中心とした狭いレンジでの小動きがすでに2ヶ月も続くところとなっています(図表4参照)。長く続いた小動きの反動で、レンジを抜けた方向に大きく動く可能性はあります。

【図表4】米ドル/円の推移 (2021年1月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

ただ、米金利低下が限られるなら、そもそもレンジの下限、109円を割れない可能性もあるでしょうし、割れて米ドル安方向に大きく動いた場合でも、意外に米ドル安・円高は限定的にとどまる可能性があるのではないでしょうか。

改めて米ドル/円の長期トレンドにおける現在の立ち位置について、52週MAとの関係で確認してみましょう。米ドル/円は52週MAを長く上回る状況が続いており、過去の経験からすると、一時的ではなく、継続的なトレンドとして展開している可能性が強いことを示しています(図表5参照)。そうであれば、トレンドと逆行する一時的な下落は、足元で107円程度の52週MA前後までがせいぜいというのが基本になります。

【図表5】米ドル/円と52週MA (2000年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

ユーロと豪ドルについて

さて、米ドル/円以上に、先週にかけて米ドル安はユーロや豪ドルに対して大きく進みました。では、そんなユーロ高・米ドル安、豪ドル高・米ドル安の見通しについても、米ドル/円と同様に、52週MAとの関係から確認してみましょう。

ユーロ/米ドルは先週まで10週連続で52週MAを下回りました(図表6参照)。このように長く52週MAを下回る動きは、経験的には一時的ではなく、継続的なトレンドとして展開している可能性が高いといえます。そうであれば、トレンドと逆行する一時的な上昇は足元で1.195米ドル程度の52週MAを長く、大きく上回らない程度にとどまる可能性が高いでしょう。

【図表6】ユーロ/米ドルと52週MA (2000年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

豪ドル/米ドルも、先週までに52週MAを9週連続といった具合に長く下回りました(図表7参照)。その意味では、すでに見たユーロ/米ドルと同じで、豪ドル/米ドル下落トレンドが展開しており、それと逆行する上昇は、足元で0.75米ドル程度の52週MAを長く、大きく上回らない程度にとどまる可能性が高いと考えられます。

【図表7】豪ドル/米ドルと52週MA (2005年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成