みなさん、こんにちは。8月の日経平均は一進一退の状態ながらじりじりと下値を切り下げるシーンがありました。

第1四半期の企業業績は予想以上に堅調なものの、新型コロナウイルスのワクチン接種の遅れ、急拡大するコロナ感染者数、さらには米国金融緩和のテーパリング観測や中東・中国情勢の混迷などが株価の上値を抑える状況となりました。

株価を見る限り、資本市場はこの好調な企業業績の継続性に疑問を持っているということなのかもしれません。

一方、過去のパターンでは「買い」となる衆議院議員総選挙が今後2ヶ月以内に必ず実施されます。総選挙の効果が果たしてこの資本市場の懸念をどれだけ緩和・払拭できるのか。当面はこの綱引きが継続するものと私は予想します。

抜本的なデジタル行政改革に期待

さて、今回は2021年9月1日に発足する「デジタル庁」をテーマに採り上げてみましょう。デジタル庁は菅政権発足時に目玉政策として掲げられたもので、霞が関組織の運営に横串を通す行政機関としての機能が注目されています。

これまでもIT改革などが過去の内閣においても謳われ、担当大臣なども置かれてきましたが、いずれも所轄の行政機関を持たない無任所大臣であり、その実行力、影響力、成果にはかなり疑問が付き纏うものでした。

しかし、今回は新たに行政機関が発足します。しかも、民間からも広くデジタル領域に精通する人材を集めており、これまでにない抜本的なデジタル行政改革が推進されるとの期待は否応なしに高まっていると言えるでしょう。

ガラパゴスからの脱却を目指せるか

そもそもデジタル庁が必要とされているのは何故でしょうか。この背景には各省庁や地方自治体が縦割りでバラバラな規格にてデジタル化を進めた結果、何重にもコストが膨らんだ上、社会基盤としてデジタルデータを共有活用できない状況に陥っていたという事実があります。

いわば、行政機関ごとに「ガラパゴス化したデジタル対応」を進めていた、ということでしょう。マイナンバーカードが運転免許証、健康保険証との連携ができない、ワクチン接種券のデータ管理は自治体ごとに異なるなど、その具体例は枚挙に暇がありません。

デジタル庁はこれらに横串を通し、より効率的な行政運用を実現するための基盤作りを担うというものなのです。

既に民間企業ではDX(デジタルトランスフォーメーション)が喫緊の課題となってきていますが、DXの実現にはデジタルを前提とした基盤の存在(デジタライゼーション)が大前提になります。

現在の行政組織はアナログ情報のデジタル化(デジタイゼーション)段階に留まっていると言え、デジタル庁にはこれらの推進役兼司令塔としての役割が大きく期待されるところなのです。

デジタル庁の発足を株式投資の観点から捉えると

では、デジタル庁発足を株式投資という観点で捉えるとどうでしょうか。単純に考えると、これまで行政機関単位でバラバラに発注されていたデジタル化投資が一元化されてしまうため、投資総額の抑制、つまり民間企業からすればビジネス機会の減少に直結すると想像できます(これはもちろん、国家財政という観点からは良い事です)。

しかし、その分個々の契約規模は大きなものになる可能性が高いとも予想できます。とすれば、より大きなプロジェクトを包括的にコーディネイトできる実力を有する企業にはこれまで以上に大きなビジネスチャンスが出てくると言えるでしょう。

当然ですが、行政のDX基盤を構築するとなると、従来型の継ぎ接ぎ拡張型アプローチではなく、後々の布石となり得る先進的かつ汎用的なプラットフォームの設計が非常に重要になります。こういった最新技術と優れたIT設計技術は、決して人海戦術などに頼る力技で実現できるものではありません。

デジタル庁がどこまでのクオリティを求めるかはまだ不透明ですが、明らかに流れは企業の規模や伝統よりも技術力を重視する方向に向かっていると考えられます。

投資対象企業が、どれだけ最先端を走っているのか、具体的にどういった実績があるのか、はしっかりと確認しておきたいところです。最先端を走る技術力に自信のある企業は、その多くが具体的な実績例を公式ウェブサイトなどで謳っているはずですから。

それ以上に私が期待するのは、デジタル基盤が整備構築されることによって、新たなサービスが生まれることです。もちろん、この可能性が現実のものとなるにはまだ年単位の時間が必要になってくるのでしょうが、インフラが揃えばそれを利用する多様なサービスが一気に花開くことは歴史が証明しています。2020年の台湾のコロナ感染抑制策などはその典型例でしょう。

行政機関のデジタル基盤である以上、民間が活用できる範囲には制限が付く公算が大きいものの、それを踏まえてもサービス範囲の拡大に伴うメリット(ユーザー利便性の向上や行政運用コストの低下、新規需要の創造)は遥かに大きなものが期待できると考えます。

IT/デジタル領域はその重要性を誰もが認識しておきながら、「今のままでも特に不自由はなく、余計な仕様変更によって複雑化してほしくない」という声と、リーダー層にIT/デジタル技術に知見を持つ人材が乏しいという状況が絡み合い、これまで行政におけるIT化は小手先の進化しか遂げることはできませんでした。

多数の専門家を擁するデジタル庁の発足がこういった状況を見事に打破してくれることを強く願って止みません。