アクティビストは「正論」であるという見方

株主総会シーズンも終わり、アクティビストの動きが新聞などのメディアを賑わせる機会はやや減ってきているように思います。一方、日本におけるアクティビストの隆盛はトレンドとなっており、引き続き動き自体は注目されているようです。

例えば、2021年8月24日号の「週刊エコノミスト」では、「”頭脳戦”のアクティビストvs”防戦”の日本企業」と題して4ページにわたってアクティビストの特集を組んでいます。これまで本連載で繰り返しお伝えしている通り、同記事でも「アクティビストと言えば『無理難題を突きつける野蛮な来訪者』と思われるかもしれないが、近年ではそのような法外な動きはなくなっており、『正論』が主流になっている」としています。確かに一般的なアクティビストの印象はステレオタイプなものですが、同記事でもアクティビストが変わってきている、「正論」であるという見方は変わらないようです。

同記事では直近のアクティビストの動きについて、特に2021年の株主総会のものをコンパクトにまとめており、具体的な動きが分かりやすいと思います。既にバックナンバーになっていますが、図書館などでご覧いただくとご自身の投資方針の参考にもなると思います。本連載でも引き続き、このようなアクティビストの動向をご案内していきたいと思います。

アクティビストの認知の変化がトレンドに

上記は週刊エコノミストの紹介ですが、週刊東洋経済や週刊ダイヤモンドでも既にアクティビスト特集が大きく取り上げられ、最近は2021年6月6日号の日経ヴェリタスでもアクティビストについて大きく特集されています。

このような動きの中でアクティビストの認知の変化は着実にトレンドになってきていると思われます。言うまでもなく、このトレンドはアクティビスト側にとっては追い風になるもので、アクティビストの主張への賛同の増加、ファンドへの資金流入、それに伴う議決権の増加などを伴って、アクティビストはより存在感を強めていくだろうと思われます。

アクティビストの活動は国内経済にも影響

もちろん、どんなことでも賛成・反対はあるものですが、基本的にはアクティビストを通じて企業が外向きになっていくことは、企業自体にとっても良いことでしょう。また、アクティビストの提案の中には利益配分に関するものも少なくありません。日本の企業の内部留保や現預金の量が増加していく一方で、国内ではインフレ目標が達成できないような状況が長く続いています。

2020年10月発表の法人企業統計によれば2019年度の内部留保(利益剰余金)は全産業(金融・保険除く)で2.6%増加し、475兆円とのことです。直近で発表された2020年度の消費税収は約21兆円です。消費増税の都度、消費の落ち込みが言われます。現在の消費税収を考えると直近の2%増税による影響は軽減税率もありますが約4兆円でしょう。

一方、法人の内部留保は年間で約12兆円の増加です。法人が配当を行った場合、そのお金は最終的には個人(配当金収入)、国(配当課税)に入ることになります。消費増税とそれに伴う消費の落ち込みは個人・国にお金が回らないことが根本問題だと思われるので、内部留保が適切に配当されることでお金が回ることは国内経済にとっても良いことではないでしょうか。

もちろん、単純に内部留保不要…ということはないと思います。しかし、例えば、2010年頃の内部留保は300兆円くらいでした。日本の企業はこの間、利益水準などは高まってきているものの、売上高などの企業の規模を考えると、内部留保が1.5倍以上になっているのは大きくなり過ぎていると言えるのではないでしょうか。そして、アクティビストは個別の企業において、そのような活動をしているということです。そういう活動の総和は国内経済にポジティブになることで、それは「正論」だということなのでしょう。いずれにせよ、アクティビストの活動は突き詰めると消費税なども含めた国内のお金の流通に関わる国内経済に影響するものだということです。

そのような背景もあり、様々なメディアでアクティビストについて語られることが多くなっているということだと思います。引き続き、個人投資家がマーケットを見る上でも重要なテーマであり、さらに重要度は増していくでしょう。

「島耕作」でアクティビストの描かれ方に更なる変化が

さて、過去の記事で「週刊モーニング」に連載されている「相談役 島耕作」でアクティビストの取り上げられ方が変わってきているということをご説明いたしました。このような連載の世の中への影響も見逃せないように思います。

「島耕作」に見るアクティビストへの理解の変化(2020年7月14日)

その「島耕作」ですが、直近の連載でまたしてもアクティビストが話題になっています。島耕作が後ろ盾となって、テコットHD(旧:初芝電産)の女性社長となったのが風花社長です。しかし、風花社長就任後もテコットの業績は芳しくなく、債務超過に陥っているということです。(これは東芝をモデルにしているように思いますが、テコットの業績が債務超過に至るまで急変している説明はあまりなかったように思います)

テコットの債務超過回避のために電池子会社を売却しようとしましたが、購入のファンドに中国資本が入っていることからその売却が難しくなり、苦境に追い込まれた風花社長は前話で苦悩していました。しかし、直近発売号では急転直下、ノンコア事業の赤字子会社の売却でその債務超過を切り抜けたようです。しかし、その後の株主総会ではアクティビストと見られる株主から風花社長はかなりの追及を受け、島耕作いわく「苦戦」していました。しかし、最終的に総会を乗り切っています。このような描写もアクティビストの一般化を感じるところです。

さて、直近の話の最後ではそのテコットの電池子会社を含めた買収案の仕掛け人は島耕作が役員時代に中国で相対した出発集団(チューファー)ではないかとされ、最後は出発集団の社長でかつては島耕作の恋敵でもあった孫鋭(随分と歳を重ねた絵になっていました)が、「狙いはテコット本体だ!現在の株価より高い価格で買い取りを仕掛ける。断ればステークホルダーやアクティビストが黙ってはいない」と宣言しています。先の記事の時は前向きに描かれていたアクティビストですが、直近発売号を見ると、今後は対島耕作になっていくのかな…と思います。

直近発売号ではテコットの先代社長である国分圭太郎が「私が初めて中国に赴任した当初は出発集団は初芝電産の足元にも及ばない存在だったけど、今や完全に逆転されて規模も企業力も出発集団のほうが上だ」と語る、島耕作目線だと悲しい場面もあります。国分の社長就任時に、既に初芝はテコットに名前を変えていました。もちろん中国赴任した頃は初芝として出発集団に相対したからでしょうが、「初芝電産」と呼ぶことにも、どこか郷愁を感じるものです。さて、出発集団のテコット買収、「正論」はどのようになるのでしょうか。今後も目が離せません。