米金利の見通し
先週の米ドル/円は110円をはさんだ方向感の乏しい展開となりました。一時、米金利の上昇に連れて110円台後半まで上昇しましたが、その後米金利が低下に転じると、110円を割り込む反落となりました(図表1、2参照)。
一旦上昇した米金利が、週後半にかけて低下に向かったのは、先週行われたパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の議会証言の影響が大きかったでしょう。パウエルFRB議長の発言は、金融緩和の見直しを急がなさそうだと受け止められました。
こうした中で、米金利の中でも特に長期金利の指標である米10年債利回りは一時1.3%を割れるまで低下しました(図表3参照)。では米金利の低下はどこまで続くのでしょうか?
米10年債利回りについて、90日MA(移動平均線)からのかい離率で見ると、先週はマイナス20%近くまで拡大する場面がありました(図表4参照)。2010年以降で見ると、同かい離率がマイナス20%以上に拡大したのは10回もありませんでした。ですので、その意味ではさらなるマイナス方向へのかい離率の拡大は、確率的には低い状況になってきたのではないでしょうか。
そもそも、米10年債利回りの90日MAからのかい離率がマイナス20%以上に拡大したのは、2020年3月の「コロナ・ショック」に代表されるように株安、リスクオフの拡大局面が基本でした。リスクオフが拡大する中で、安全資産の債券が買われ、債券利回りが低下、さらにそのような債券利回り低下が行き過ぎた動きになった状況は想像しやすいところでしょう。
そういった観点からすると、最近のように米国の主要な株価指数が軒並み最高値を更新するなど、むしろリスクオンが続いていると見られる中での米金利低下には、自ずと限度があるのではないでしょうか。
米ドル/円の中期的「立ち位置」の再点検
米ドル/円は、7月にかけて一時111円台後半まで上昇したものの、その後110円を割れるまで急反落となったことで、2021年1月の102円台から上昇してきたトレンドラインが大きく割れた形となりました(図表5参照)。このため、テクニカルには米ドルの下落リスクを試す状況が続きそうです。
ただ米ドル/円は、日米金利差と基本的に高い相関関係が続いてきました。この金利差の主役である米金利は、既に見てきたように、さらなる低下余地は限られる可能性が高いように思います。
その見立てが正しければ、米ドル高のトレンドラインを割り込み、テクニカルには米ドル下落リスクが試される状況が続くものの、「米金利低下=米ドル安」も限定的にとどまる可能性が高いのではないでしょうか。
最後に改めて米ドル/円の中期的な「立ち位置」について確認しましょう。米ドル/円は一時111円台後半まで上昇する中で、足元で106.5円程度の52週MAを「大きく」、「長く」上回りました(図表6参照)。このように、52週MAを本格的にブレークした動きは、これまでの経験からすると一時的ではなく、米ドル/円の上昇がトレンドとして展開している可能性が高いことを示すものです。
では、今回米ドル高のトレンドラインを割り込んできた米ドルの下落が、あくまで米ドル高トレンドが続く中での一時的な米ドル安に過ぎないなら、それはどのようなシナリオになるのでしょうか。
比較的近いところでの代表的な米ドル高・円安トレンドは2011年から2015年にかけて約4年間続いたものです。相場ですから、約4年間の米ドル高トレンドでも一時的な米ドル安は何度かありましたが、それは52週MA前後までがせいぜいでした(図表6参照)。
以上を参考にすると、最近の米ドル安があくまで一時的な動きであるなら、52週MA前後までがせいぜいといった見通しになります。その52週MAは足元で106.5円程度なので、その意味では一時的な米ドル安なら最大でも106~107円程度までがせいぜいといった考え方になるでしょう。
それにしても、110円程度の現在の水準から106~107円程度まで米ドルが下落するなら、比較的大幅な下落リスクがあると感じるかもしれません。それとも、もっと軽微な米ドル安にとどまるのか、それは米金利の低下次第といった考え方が基本だと思っています。