米国金融大手のゴールドマン・サックスが発表した原油価格100ドルまで上昇するとの予想が話題です。世界で新型コロナウイルスのワクチン接種が進められ経済の正常化が期待される中、産油国による連合体であるOPECプラスが2020年5月から協調減産で供給を制限していることで、需給がタイトであることが価格上昇の背景にあります。

現在WTI原油先物価格は70ドル台を付け、高値圏でのもみ合いとなっています。そこで、原油が上昇することによって為替市場で注目される通貨と取引の注意点をまとめました。

原油輸出量が大きな国は原油高によって利益が膨らむ~カナダの場合~

産油国にとって原油は重要な外貨獲得商品です。高く売れればより大きな利益を手にすることができます。世界の原油輸出国1位はサウジアラビア、2位ロシア、3位イラクと日本から投資しにくい国が並んでいますが、4位が米国、5位にカナダと続きます。

カナダは産油国であり原油の輸出量も大きい国です。カナダの全輸出品の中で原油等鉱物製品が占める割合は28%にものぼります。つまり原油が高くなればカナダの貿易収支における黒字が増え、結果カナダドルが強くなる可能性を想定することができる、というわけです。

こちらはカナダドル/米ドルと原油価格を重ねたチャートですが、原油が高い時にはカナダドルが高い傾向が見て取れます。2020年の原油価格のボトムからの上昇相場でもカナダドルも一緒に上昇してきていますね。特に原油が急落した局面での相関が高いことを覚えておいてください。

【図表1】カナダドル/米ドルとWTI原油チャート
出所:TradingViewより筆者作成

足元でカナダドルが下落しているのは6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で米国の早期利上げの可能性が示されたことがきっかけで米ドル高が進んだためです。

しかしながら、このまま米ドル高が進行していけば、原油価格も下落する可能性が出てくるため、金融政策の転換による米ドル高が本物かどうかを見極める相場となります。そのことにより、短期的に原油とカナダドルの相関が失われています。

パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の半期議会証言はハト派的な内容でしたが、消費者物価指数の上昇などを受け、米国のインフレを警戒する市場関係者も増えてきています。

米ドル安=原油高、米ドル高=原油安から見る物価と通貨の関係

物価が上昇するインフレは、言い換えれば通貨の価値が下落することです。つまり国際商品価格が上昇しインフレが進めば、基軸通貨であり決済通貨である米ドルは下落するという関係にあります。

物価と通貨は逆相関にあるということですが、それで考えるならば、単純に原油価格は米ドルと逆相関で動くということになります。

下図のチャートはドルインデックスと原油のチャートを重ねたものです。概ね逆相関関係にあるといえますが、2005年などは米ドル高でも原油高でしたし、直近の原油高局面でもFOMC以降は米ドル高となっており、原油が必ずしも金融要因だけで動いているわけではないことも確認できます。

コモディティ(商品)は供給と需要のバランスで価格が決まる部分が大きいことも事実です。金利や米ドルなどの金融要因と、供給と需要のバランスである需給のどちらに強く影響されるかは、その時々で異なるのです。

【図表2】ドルインデックスとWTI原油チャート
出所:TradingViewより筆者作成

ここでも原油上昇時よりも急落時に、ドルインデックスが大きく値動きしていることに気が付きますね。

原油急落時には注意が必要

市場に安心感があり「リスク選好」相場となると、株や原油などのリスク資産が上昇します。為替市場でのリスクオン相場の象徴的な値動きは「米ドル安」です。

これは株や原油などの商品の値上がり益が期待できるため、米ドルすなわちキャッシュからリスク資産に投資が進むためです。インフレ時に通貨が売られ下落するのはこのためですね。

しかし、原油や株が急落したらどうでしょうか。値下がりで損失が膨らむ前にと、一気に原油や株を売ってキャッシュ化しますね。つまり、リスク資産は一気に米ドルに戻されるわけです。

ここから原油価格が100ドルまで上昇するかどうかは分かりませんし、上昇時にカナダドルが一緒に上がるかどうかも確信は持てません。

しかし、OPECプラスの協調減産の足並みが崩れる、新型コロナウイルスのデルタ株が猛威を振るうことで再び世界景気が減速するなど、今後、想定外の事象が発生することも考えられます。

想定外の事象の発生により原油が急落する局面がくれば、急激な米ドル高につながることもあるということを覚えておきましょう。