米ドル/円急落の2つの理由

先週の米ドル/円は、一時110円を大きく割り込む急落となりました。これは、金利差から見た米ドル「上がり過ぎ」の反動が入ったということでしょう。米ドル/円は先々週111円台後半まで上昇しましたが、これはそれまでの米ドル/円の上昇を裏付けた形となっていた日米2年債利回り差からかい離したものでした(図表1参照)。先週の米ドル/円急落により、この金利差とのかい離はほぼ是正されたようです。

【図表1】米ドル/円と日米2年債利回り差(2021年1月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

ところで、5月頃からの米ドル/円は、1円値幅の2本のトレンドラインの間を基本的に上下動する展開が続いていました(図表2参照)。これを90日MA(移動平均線)との関係で見ると、90日MAを2%上回った水準が上限、1%上回った水準が下限といった1%レンジ中心の小動きが続いてきたということになります(図表3参照)。

【図表2】米ドル/円の推移(2021年1月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成
【図表3】米ドル/円の90日MAからのかい離率(2020年4月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

7月8日に米ドル/円が110円を大きく割り込んだ動きは、それらのレンジを「下放れ」したものでした。一定期間続いてきたレンジをブレークしたことで、下落が加速したことが米ドル/円の急落をもたらしたもう1つの要因だったということでしょう。

では、米ドル/円の下落はさらに広がるでしょうか。その鍵は、米金利が握っているように思います。図表1で見たように、先週の米ドル/円急落を受けて、日米金利差とのかい離はほぼ是正されたようです。ということは、この先は日米金利差の主役である米金利がさらに下がるか、それとも上昇再燃に向かうかが、基本的に米ドル/円の行方を決めることになるのではないでしょうか。

米金利の行方を決める米金融政策

その米金利は、6月FOMC(米連邦公開市場委員会)以降、金融政策を反映する米2年債利回りと米ドル/円の関係が強くなりました。米2年債利回りは一時0.27%まで急騰したものの、先週は0.2%を割れるところまで低下しました(図表4参照)。では米2年債利回りはさらに低下するのでしょうか、それとも上昇再燃に向かうのでしょうか。

【図表4】米2年債利回りの推移(2021年1月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

この米2年債利回りの動きを90日MAからのかい離率で見ると、記録的な「上がり過ぎ」の修正により、低下したと言えそうです。同かい離率は一時プラス60%以上に拡大し、少なくとも2010年以降では最大のプラスかい離率を記録しましたが、先週はプラス10%程度まで縮小しました(図表5参照)。これを見ると、「上がり過ぎ」はほぼ是正されたようです。

【図表5】米2年債利回りの90日MAからのかい離率(2010年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

同じ米金利でも、長期金利の指標として一般的に2年債利回りより馴染がありそうな10年債利回りについても90日MAからのかい離率を見ると、こちらは先週一時マイナス方向へ20%近くまで拡大しました(図表6参照)。経験的には、むしろ「下がり過ぎ」気味になってきた可能性があります。

【図表6】米10年債利回りの90日MAからのかい離率(2010年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

米2年債利回りは記録的な「上がり過ぎ」がほぼ是正され、米10年債利回りに至っては逆に「下がり過ぎ」気味になってきたようです。こういった中で、米金利がさらに低下に向かうということは、果たしてあり得るのでしょうか。

6月FOMCの後に米2年債利回りが急騰したのは、「コロナ・ショック」対応で続けてきた金融緩和の見直しに注目が高まったためでした。ではそれは過剰反応だったのでしょうか。仮に過剰反応だったなら、米2年債利回りはFOMC前の水準までさらに低下する可能性があるでしょう。そうではなくて、金融緩和見直しに向かうとの受け止め方が正しいなら、米2年債利回りの低下は限られ、むしろ「上がり過ぎ」が是正された後は上昇再燃のタイミングを模索する可能性があるのではないでしょうか。

米国の政策金利であるFFレートは失業率と密接な関係があります。このため、両者の関係性がより高まるように、失業率の直近値から過去10年の平均値(10年MA)を引いて求めた「修正失業率」を参考に、米金融緩和見直しについて考えてみましょう。

いわゆる「リーマン・ショック」対応の金融緩和見直しは、2014年1月に「テーパリング」と呼ばれる緩和の縮小が始まりました。これは、「修正失業率」がマイナスに転落、別な言い方をすると失業率が10年MAを下回ったタイミングと一致していました(図表7参照)。

【図表7】FFレートと米失業率の関係(1990年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

さて、足元の米失業率の10年MAは5.9%。6月初めに発表された米5月失業率が5.8%と10年MAを下回ると、その後行われた6月FOMCは、一般の予想以上に金融緩和見直しに前向きと受け止められるところとなりました。

以上を整理すると、「コロナ・ショック」対応の金融緩和見直しが現実味を帯びるかは、米失業率が10年MAの5.9%を継続的に下回るかが1つの目安ではないでしょうか。それが米2年債利回りを介して、米ドル/円の行方にも大きく影響する可能性がありそうです。