日本版スチュワードシップ・コードによって、機関投資家の株主としての行動が変わりました。今回は、機関投資家のスチュワードシップ活動によってアクティビストとの関係がどのように変化したのかについて解説します。

日本版スチュワードシップ・コードの役割

2014年2月に日本版スチュワードシップ・コードが公表され、機関投資家に対する「スチュワードシップ責任」が規定されました(2020年3月に再改訂)。「スチュワードシップ責任」とは、機関投資家が投資先企業やその事業などに関する深い理解のほか、運用戦略に応じた サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)の考慮に基づくエンゲージメント(目的を持った対話)などを通じ、企業に対して企業価値の向上や持続的成長を促し、顧客・受益者の中長期的な投資拡大を図る責任のことです。

そして、企業に対してはガバナンス(企業統治)機能の構築・運用が法規定で定められています。機関投資家と企業、両方の役割を明確化するとともに、適切に行使されることで質の高い企業統治が実現され、企業の持続的な成長と顧客・受益者の中長期的な投資リターンの確保が図られることが期待されています。

スチュワードシップ・コードの受入れを表明した機関投資家の内訳

約177兆円(2020年度第3四半期末時点)の運用資産額を持つGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、運用会社を選ぶ際にスチュワードシップ活動を重視し、金融庁がスチュワードシップ活動の重要性を強調しているため、機関投資家はスチュワードシップ活動を強化するようになりました。

GPIFの手数料は安いので、積極的に受けないという運用会社もありますが、GPIFのアセットマネージャーになると泊がつくので、ぜひ受けたいという運用会社もあります。また、日系運用会社は大手金融機関の子会社が多いので、金融庁の方針には逆らえません。

スチュワードシップ・コードの受入れを表明した機関投資家は307(2021年4月30日時点)で、業態別の分類は、以下の通りです。

●信託銀行等 6
●投信・投資顧問会社等 199
●生命保険・損害保険会社 24
●年金基金等 66
●その他(機関投資家向けサービス提供者等)12

日系の大手運用会社では、スチュワードシップ活動に10人以上の担当者を置くところもあります。そして、スチュワードシップ活動の報告書などを通じ、自社の活動やエンゲージメントの熱心さをアピールするようになってきています。

ただスチュワードシップ活動は人を揃えたり、データベースを購入するなどのコストがかかるため、いかに収益に結びつけるかが課題になっています。

日本版スチュワードシップ・コードによるアクティビスト活動の変化

2000年代の初頭から半ばまで、アクティビストは対象企業の株式を買い集めて株主提案を行い、自らの要求を圧力によって経営陣に飲ませる傾向が見られました。そういったイメージから、強引で非情な利益第一主義の「ハゲタカ」と呼ばれていたこともあります。

しかし現在のアクティビストは、必ずしも対象企業の株式を大量保有していなくても、株主提案を提出しています。スチュワードシップ・コードの導入により、信託銀行や生命保険会社、資産運用会社などの機関投資家にも、投資先企業に対する監視責任が生じるようになったからです。

アクティビストの提案でも、企業価値向上に結びつく提案には、機関投資家も賛成票を入れざるを得なくなりました。そのため、アクティビストは上記に沿った提案を出せば機関投資家を巻き込み、少数の株式保有比率でも経営陣を動かせる「レバレッジ戦術」が可能になったのです。

上場企業と機関投資家・アクティビストとの対話(エンゲージメント)

GPIFが2021年5月に発表した上場企業向けのアンケート(※)では、「ここ1年間のIRミーティング等における機関投資家について、5割近くの企業が好ましい変化と回答」という結果が示されています。また、「コロナ禍を受けて、78.1%の企業が、機関投資家との対話や内容に変化があったと回答。具体的には、コロナ禍による業績への影響や今後の市場変化への対応をはじめ、従業員の健康・安全・働き方改革などS(社会)に関するテーマの対話が増加した、などの回答が多く見られた」とのことのです。

また、同アンケート結果によると、「アクティビストやエンゲージメントファンドとの対話について、要請があったと回答した企業は48.3%。うち94.4%の企業が対話を行っている。」ということです。今回のアンケート結果を見ると、上場企業と機関投資家、アクティビストの対話が日常的に行われるようになってきていると言えるでしょう。

「アクティビスト」が特別な存在ではなくなる可能性

最近はアクティビストが出した株主提案に、資産運用会社や年金基金などの機関投資家が賛同するケースも珍しくなくなりました。アクティビストを別動隊のように使いこなしている機関投資家も現れてきています。

日本版スチュワードシップ・コード導入後の機関投資家の変化によって、今後はアクティビストという言葉が特別な意味を持たなくなってくる可能性も考えられます。受託責任を考えれば、企業との対話を通じて業務改善や利益還元の働きかけをするのは、機関投資家などのプロ投資家にとって、当然の振る舞いだと考えられるようになってきているからです。

企業にとっては情報開示や説明責任などのハードルが上がることになり、負担感が増します。しかし株式市場から資金を調達してリスクマネーを集めるための必要なコストだと考えることもできます。機関投資家、企業ともにエンゲージメント(対話)に対しての意識改革が必要な時代になったと言えるでしょう。

(※)GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)「第6回 機関投資家のスチュワードシップ活動に関する上場企業向けアンケート集計結果の公表について」を参照。