加速する再生可能エネルギー分野への投資

国際エネルギー機関(IEA)は6月2日、世界エネルギー投資報告書を発表した。それによると、2021年の世界のエネルギー投資は前年比9.6%増の1兆8510億ドルになる見込みだ。コロナ以前の水準には届かないものの、1兆6000億ドル台に落ち込んだ前年からは回復する兆しを見せている。

【図表1】世界のエネルギー投資額の推移
出所:筆者作成

6月11~13日に、英国屈指のリゾート地であるコーンウォールでG7サミットが開催された。このコーンウォールは200年ほど前に鉱山業で栄え、英国の産業革命の進展を支えた歴史を持っているが、現在では再生可能エネルギー産業が集積している場所だという。今回のサミットにおいては気候変動対策も主要な議題の1つであった。英国のジョンソン首相は世界の「脱炭素」を加速させる象徴として、歴史的背景を持つコーンウォールを会場に選んだ。

再生可能エネルギーへの投資は加速している。前述の世界のエネルギー投資額(1兆8510億ドル)のうち、新たな発電設備への投資は5301億ドル(前年比3.3%増)と全体の3割弱。内訳は、石炭が450億ドル、ガスと石油は740億ドル、原子力は440億ドル、そして再生可能エネルギー向けの投資は3674億ドル(2.4%増の)と約7割を占めている。

IEAは、再生可能エネルギーが石炭を追い越し、2025年までに世界最大の発電源となり、世界の電力の3分の1を供給するとの見通しを示している。確かに、再生可能エネルギーへの投資は増加傾向が続いており、2015年(3080億ドル)と比べると約17%伸びている。

【図表2】2021年の発電設備への投資内訳
出所:筆者作成

石油王ロックフェラーをルーツに持つエクソンモービルがアクティビストに完敗

再生可能エネルギー市場にとっては、ESG(環境・社会・統治)投資を背景にした投資家の姿勢の変化も追い風だ。ESGに準拠した投資を行う運用資産は近年、3割程度の伸びを続けている。この市場は数年前には欧州が中心であったが、今では米国で急速に拡大し、アジアにも広がりつつある。

【図表3】ESGに準拠した投資を行う運用資産の推移(2012年~2020年)ESG投資は欧米を中心に拡大している
出所:GZERO

米石油大手のエクソンモービル(XOM)が、アクティビストによって推薦された4人の取締役候補のうち3人を取締役に就任させる人事を発表したのは6月初めのこと。エクソンモービルをめぐっては、アクティビストである投資会社エンジン・ナンバーワンとプロキシー・ファイト(委任状争奪戦)に入っていた。エンジン・ナンバーワンはエクソンモービルについて、長期的な価値を高めることに失敗してきていると指摘した上で、配当維持のために他の所でコスト削減しつつ、クリーンエネルギーへの投資にさらに重点を置くよう求めていた。

エンジン・ナンバーワンは、2020年12月に立ち上がったばかりの小規模なヘッジファンドで、エクソン株の保有比率はわずか0.02%にとどまっていた。しかし、半年間にわたる委任状争奪戦で、3億ドル超のエクソン株を保有するカリフォルニア州教職員退職年金基金(CalSTRS:カルスターズ)や世界最大級の投資運用会社ブラックロックといった大株主を味方につけた。

アクティビストであるエンジン・ナンバーワンの株主提案にカルスターズやブラックロックなどの機関投資家が賛成に回ったことは、企業にとって再生可能エネルギーへの投資が、もはや不可欠であることを世間に知らしめる結果となった。石油王ジョン・ロックフェラーのスタンダード・オイルにルーツを持つエクソンモービルといえども、クリーンエネルギーへの止まらない潮流には逆らえなかった。

投資家の評価軸が明らかに変わってきている。ブラックロックのラリー・フィンク最高経営責任者(CEO)は2021年初め、投資先企業と顧客投資家へ向けた書簡において、「気候変動が企業の長期的業績を決定する主因になりつつある」とした上で、「気候変動リスクは投資リスクであると投資家は認識するようになった」と指摘。ESGを軸にした運用を強化すると表明していた。

再生可能エネルギーには生態系への影響や太陽光パネルの廃棄物の問題など不都合な真実が伴う。しかし、世界はゆっくりとではあるものの化石燃料から再生可能エネルギーへの転換を進めている。この化石燃料からクリーンエネルギーへの移行には、莫大な資金と長い年月が投入される必要があろう。だからこそ、投資家にとっては息の長い投資テーマになる。

再生可能エネルギー関連銘柄

米国市場に上場する再生可能エネルギー株をいくつかピックアップした。

【図表4】米国市場に上場する主な再生可能エネルギー関連銘柄
出所:筆者作成
※マネックス証券では、ブルックフィールド・リニューアブル・エナジー・パートナーズ(BEP)の取扱いはしておりません。
【図表5】再生可能エネルギー各社のEPSの推移
出所:筆者作成

各社のEPSの推移をまとめると、安定的な利益をあげているのはエクセル・エナジー(XEL)、ネクステラ・エナジー(NEE)、ソーラーエッジ・テクノロジーズ(SEDG)、この数年で利益が成長してきているのがエンフェーズ・エナジー(ENPH)、2019年から2020年に急回復しているのがファーストソーラー(FSLR)である。

ネクステラ・エナジー(NEE)

ネクステラ・エナジーはフロリダ州で電力事業を手がける他、水力や風力、地熱などを利用した発電施設を運営しており、再生可能エネルギーの米国最大手だ。2020年には一時、エクソンモービルの時価総額を上回ることがあった。

【図表6】ネクステラ・エナジーの業績推移
出所:筆者作成

ネクステラ・エナジーはフロリダ州での電力事業という安定的な収益基盤を持ちつつ、新たな投資に資金を積極的に投入している。今後数年間で、太陽光を中心としたクリーンエネルギーのプロジェクトに資金を投入する計画だ。また、安定した配当も魅力の1つである。

【図表7】ネクステラ・エナジーの1株当たりの配当と配当性向
 

大きな投資を必要とする再生エネルギーを手がける企業にとって、強いキャッシュフローを持っているかどうかは重要だ。手元資金が潤沢にあるということは、将来へ向けた新たな投資に資金を振り向ける余裕があることを意味している。

エクセル・エナジー(XEL)

エクセル・エナジーはコロラド、ミシガン、ミネソタ、ニューメキシコ、ノースダコタ、サウスダコタ、テキサスなどの西部および中西部の8つの州で電力と天然ガスを供給している。売上、利益ともに順調に推移している。

【図表8】エクセル・エナジーの業績推移
出所:筆者作成

エクセル・エナジーの特徴は、潤沢なキャッシュフローを持っているところにある。2021年2月13日付のモトリーフールの記事「【米国株動向】2021年一押しの再生可能エネルギー銘柄」によると、エクセル・エナジーは、CO2の排出量を10年で80%削減し、2050年までにゼロにするという野心的な計画を立てているとのこと。天然ガスや再生可能エネルギーなどのクリーンな電気に置き換える目標達成に向けて2025年までに240億ドルを投資する予定だという。

【図表9】エクセル・エナジーの営業CFとFCF
出所:筆者作成

積極的な投資を行なっているためフリーキャッシュフローはマイナスとなっているが、2020年末時点の営業キャッシュフローは約28億ドルと十分な余力を備えている。

石原順の注目5銘柄

エンフェーズ・エナジー(ENPH)
出所:トレードステーション
エクセル・エナジー(XEL)
出所:トレードステーション
ネクステラ・エナジー(NEE)
出所:トレードステーション
ソーラーエッジ・テクノロジーズ(SEDG)
出所:トレードステーション
ファースト・ソーラー(FSLR)
出所:トレードステーション