ESG投資が広がるにつれて、アクティビストの活動が活発化しています。ESG投資関連の株主提案が、機関投資家を中心に一定の支持を得るようになってきたからです。今回は、ESG投資とアクティビストとの関係について解説します。

ESG投資とは

ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を意識した取り組みのことです。例えば「環境」には気候変動や水資源、「社会」には女性従業員の活躍、「ガバナンス」には少数株主保護や取締役の構成などがあります。

これまでは利益率やキャッシュフローなど定量的な財務情報を使って企業価値を分析していました。それに加えて、非財務情報である「ESG」の観点を加えて企業を評価し、投資先を決める投資方法を「ESG投資」というのです。

ESGアクティビストの存在感が増している

アクティビストがESG投資に力を入れ始めています。気候変動や従業員への対応が株価に影響しやすくなったからです。今後は、企業と株主が環境や社会問題について対話する時代が当たり前になるでしょう。

そしてアクティビストだけでなく、年金基金や資産運用会社などが環境対策の不備で取締役の選任に反対したり、環境問題に関する株主提案を出したりしています。欧米では、企業と環境や社会に関する投資家との話し合いは「普通」になりつつあります。

責任投資原則(PRI)に署名するアクティビスト

アクティビストがESGを重視する動きは、機関投資家などアセットオーナーの意向が大きく影響しています。欧米の年金基金や大学財団から運用を受託するためには、ESGの運用体制が欠かせない条件になりつつあるからです。

2006年に国連のアナン事務総長(当時)が機関投資家に対し、ESGを投資プロセスに組み入れる責任投資原則(PRI)を提唱しました。そして、2019年3月末時点で2,400近い資産運用会社や年金基金がPRIに署名しています。年金基金などアセットオーナーの署名も432にのぼり、運用資産残高の合計は20兆ドル以上(約2,200兆円)に達しています。そして、年金や財団、資産運用会社だけでなく、アクティビストやヘッジファンドなどにも国連の責任投資原則(PRI)に署名する動きが広がり、ESG投資に積極的に取り組んでいるとのことです。(※1)

GPIFのESG投資への取り組み

世界最大級の運用資産総額(約151兆円:2020年3月末)を誇り、私たちの国民年金や厚生年金を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も、ESG投資に力を入れています。2017年に国内株式を対象にしたESG指数連動のパッシブ運用を始め、2018年には海外株式を対象にした指数を採用しています。そして、ESG指数に連動した運用資産総額は5.7兆円になっているとのことです。(※2)

ただ、GPIFがESGを考慮しているのは指数連動部分だけではありません。GPIFのウェブサイトによると、GPIFは2017年10月に投資原則を改め、「株式にとどまらず、債券など全ての資産でESGの要素を考慮した投資を進めていきます」と書かれています(※1)。GPIFの運用は、ほとんどを外部の運用会社に委託していますが、委託先の運用期間の評価基準にESGの視点を取り入れ、運用プロセス全体でESG投資を考慮した投資を推進していることがうかがえます。

機関投資家が環境アクティビストへ

近年、大手の機関投資家が株主提案を増やしたり取締役への選任に反対するなど、アクティビズム活動を行うようになりました。そうした流れに追随するアクティビストやヘッジファンドも増え、企業への圧力は増しています。

例えば、2020年の米国の株主総会では、以下のような提案が行われました。

エクソンモービル

気候変動リスクへの対応の遅れで10兆円以上の価値が失われたとして、ヘッジファンドが改革を要求。また、ブラックロックも会社側の取締役選任議案に反対票を投じています。

JPモルガン・チェース

国際的な気候変動対策「パリ協定」を達成するため、株主が行動計画の公表をJPモルガン・チェースに求める株主提案を行いました。この株主提案には5割近い賛成票が集まりました。

また日本でも、みずほフィナンシャルグループに対して環境NPOの「気候ネットワーク」が、脱炭素の行動計画を開示するよう定款変更を求める株主提案を行っています。この株主提案は否決されたものの、海外の大手議決権行使助言会社が賛成を薦め、国内外株主の34.5%の支持を得ました。気候ネットワークは、「レインフォレスト・アクション・ネットワーク」(RAN)や「メコン・ウォッチ」といった国際NPOと連携し、みずほフィナンシャルグループに環境対策を迫りました。

環境アクティビストへの対応を迫られる日本企業

日本企業の対応も待ったなしの状況です。ESG投資の拡大によって、情報開示や環境対策が従来のままでは企業の資金調達が難しくなるからです。ドイツの環境団体「ウルゲバルト」は、石炭事業に関わる企業のデータベースを公開しています。ここに掲載された企業は「環境保護に取り組んでいない企業」とみなされ、機関投資家などから株式を売却される恐れがあります。

また、朝日新聞のインタビュー記事の中で、第一生命ホールディングスの稲垣精二社長は同社が脱炭素社会を実現するために、今後3年で3,000億円以上のESG投資を行うことを語っています。そして、保有する債券や株の発行企業や不動産などから排出される温室効果ガスを、2025年までに2019年度末比で25%削減する方針を決定したとのことです。取り組みの鈍い企業に対しては対話を求め、それでも取り組まない場合は株式等の売却もありえる、としています。

機関投資家は、今後ますますESGを重視するようになってくるでしょう。そして、NPOを通じてESG投資に必要な情報を集めています。企業も環境の専門家を雇うなどして投資家向けのIR活動を変えていく必要があると思われます。

(※1)GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のウェブサイト情報「ESG投資」を参照。

(※2)GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)「2019年度ESG活動報告」を参照。