2011年12月1日の香港市場は急反発。要因は2つあります。1つは中国人民銀行が3年振りに預金準備率を引き下げたことです。また、中国の財政次官が経済成長を最重点にすべきとコメントしたこともプラスになりました。この預金準備率引き下げは予想外でした。引き下げ幅は0.50%と控えめでしたが、中国政府が中国経済の失速を心配しており、インフレ対策と同じくらい経済成長に軸足を移してきていることが明確になったことが重要です。

2012年1月の旧正月前に、さらなる預金準備率の引き下げもあり得るのではないかとの観測も拡がっています。香港市場が急反発したもう1つの要因は日本銀行、米連邦準備制度理事会(FRB)、カナダ銀行、イングランド銀行(BOE)、欧州中央銀行(ECB)の6銀行がドル資金供給の協調策を決めたことです。この発表後、7%を超えていたイタリア10年国債の利回りは12月1日時点で6.6%まで落ち着きました。これまで期待されていた中国の金融緩和が現実のものとなった上に、世界的な金融不安が一時的に後退したことで、株式市場に一気に反動が来た印象です。香港では金融・不動産のブルーチップの多くが10%を超える大幅高となりました。

もっともこのまま株価が上昇を続けていくかというとそれも難しいところにあると思います。中国では、まだ大胆な緩和策がとれる段階ではありません。ちなみに国営の英字新聞チャイナデイリーには、今回の預金準備率引き下げはあくまでも経済全体の流動性緩和が目的であって、不動産業界向けではない(不動産に対する規制策が緩和されるわけではない)ことが伝えられていますので、不動産株の上昇は行き過ぎかもしれません。

今後のポイントは2011年12月9日に発表される11月の消費者物価指数と生産者物価指数がどこまで下がるかです。消費者物価指数については、10月は前年同月比5.5%増まで下がりました。今回は4.5%増あたりまで下がるというのが市場コンセンサスになっていますが、どこまで下がるかどうか。また、その先行指標となる生産者物価指数も10月は5.0%増と、9月の6.5%増から大きく落ち着いており、11月は3.2%が予想されていますが、そこまで下がるかどうかです。

また、6カ国の中央銀行の協調策も、一時的な流動性の問題を解決するには十分であるものの、根本的な問題の解決にはつながらないとの見方が出ています。実際のところ12月1日夜の欧米株式市場は早くも反落となってしまいました。ちなみに今回の発表でもギリシャの国債価格の方はまったく反応がありませんでした。以上から考えると、欧米市場の方はニュースフローによって上にも下にも大きく動くボラティリティーの高い相場展開が引き続き続くと考えた方がよさそうです。しかし、中国の方は中央政府から明確なサインが送られてきたことにより、欧米市場よりは強い相場展開が期待できそうです。まずは12月9日に発表される消費者物価指数と生産者物価指数に注目しましょう。

コラム執筆:戸松信博