米ドル/円下落が鈍い理由

米ドル/円は先週も続落、108円割れとなりました(図表1参照)。ただ下落ペースは鈍い状況が続いています。4月に入ってからの米ドル/円下落はまだ続くのか、それともそろそろ終わるのかについて今回は考えてみたいと思います。

【図表1】米ドル/円の推移 (2020年12月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

米ドル/円下落ペースが鈍い一因は、4月に入り110円台から米ドル/円反落となったものの、これはあくまでそれまでの米ドル急騰の一時的な反動に過ぎないといった具合に、マーケットでは米ドル高予想に著変ないということではないでしょうか。

そんなふうに感じさせるのは、ヘッジファンドなどの取引を反映しているとされるCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋のポジションです。これを見ると、4月に入り、それまで拡大してきた米ドル買い・円売りが一巡したものの、その後も米ドル買い・円売りポジションの高水準が続きました(図表2参照)。

【図表2】CFTC統計の投機筋の円ポジション (2020年1月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

図表1と2の違いは興味深いところがあります。繰り返しになりますが、4月に入り米ドル/円反落となった中で、米ドル買い・円売り姿勢はあまり変わっていない可能性があったわけです。ではそれはなぜなのか。米ドル買い・円売り姿勢が変化する条件とは?

それを考える上で、過去の売買転換について確認してみましょう。図表2のように、CFTC統計の投機筋のポジションが、2020年以降で米ドル買いから米ドル売りへ、そして米ドル売りから米ドル買いへ転換したのは、それぞれ2020年3月初め、2021年2月初めでした。これを比較的うまく説明できそうなのは、米ドル/円の120日MA(移動平均線)との関係でした。

具体的には、CFTC統計の投機筋のポジションが、米ドル売りに転換した2020年3月初めは、米ドル/円が120日MAを下回ってきた局面であり、その後米ドル買いに転換した2021年2月初めは米ドル/円が120日MAを大きく上回り始めた局面でした(図表3参照)。

【図表3】米ドル/円と120日MA (2020年1月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

 

以上のように見ると、少なくともCFTC統計の投機筋のポジションの売買転換は、120日MAが目安になってきました。そんな米ドル/円の120日MAは、足元で106円程度。米ドル/円が続落する中でも、CFTC統計など一部のデータで見る限り、米ドル買い・円売り姿勢に著変ないのは、依然として足元106円程度の120日MAは大きく上回った状況が続いているということが一因ではないでしょうか。

別な言い方をすると、米ドル/円が120日MAを下回るまでは、少なくともヘッジファンドなど主要な市場筋の米ドル買い・円売り姿勢に著変はなく、その結果、米ドル/円は下落が続いても緩やかなペースにとどまる可能性があります。

米ドル/円下落が鈍いもうつの理由

ところで、先週にかけて米ドル/円が続落したものの、下落ペースが鈍い状況が続いたもう1つの要因として米金利との関係があるでしょう。この数ヶ月米ドル/円と高い相関関係が続いてきた日米金利差ですが、先週は米ドル/円の続落に対して、金利差米ドル優位は縮小気味の展開となりました(図表4参照)。

【図表4】米ドル/円と日米金利差 (2020年12月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

このように、金利差米ドル優位縮小となったのは、米金利が下げ渋ったことが主因です。4月に入り、予想をはるかに上回る米景気指標が続く中でも、米金利は低下が続きました。しかしそれもさすがにもう終わったのか。

上述のように、米景気「絶好調」でも米金利低下となったことについて、私は短期的な「上がり過ぎ」の反動だろうとこの間述べてきました。これについて、たとえば米10年債利回りの90日MAからのかい離率は、一時プラス50%以上に拡大したところから、先週はプラス20%以下まで縮小しました(図表5参照)。

【図表5】米10年債利回りの90日MAからのかい離率 (2010年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

ただ、経験的には、大きく行き過ぎた動きの反動は、90日MAを逆方向にブレークするまで続くのが基本だったようです。ちなみに、足元の米10年債利回りの90日MAは1.3%台なので、経験則からすると米金利低下はまだ「続編」が残っている可能性がありそうです(図表6参照)。

【図表6】米10年債利回りと90日MA (2020年1月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

以上を整理すると、米金利との関係からすると米ドル/円の下落リスクはなお続く可能性があるものの、足元で106円台の120日MA以上で推移している中では、米ドル高予想に著変なく、米ドル/円の下落も限定的にとどまりそうだ、そんな感じになるのではないでしょうか。