111~112円という重要水準

先週の米ドル/円は、110円の大台を突破すると、そのまま一気に111円近くまで一段高となりました。111円は、2020年3月の「コロナ・ショック」以降の高値、そして112円は、「コロナ」前に記録した2020年の高値です(図表1参照)。果たして、4月相場において、米ドル/円はそんな重要水準をさらに超えていくのでしょうか。

【図表1】米ドル/円の推移 (2020年1月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

米ドル/円の最近の上昇はかなり急ピッチといった印象もありますが、ただ90日MA(移動平均線)からのかい離率はまだプラス5%弱にとどまっています。経験的に米ドル/円の短期的な「上がり過ぎ」懸念が強まるのは、90日MAからのかい離率がプラス10%前後まで拡大した場合なので、その意味では足元は必ずしも「上がり過ぎ」懸念が強いというほどではありません(図表2参照)。

【図表2】米ドル/円の90日MAからのかい離率(2000年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

次に円のポジションを確認してみましょう。CFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションは、最近売り越し(米ドル買い越し)が急拡大しましたが、それでも先週時点の6万枚弱程度の売り越しは、経験的にはとくに「売られ過ぎ」を懸念するほどではありません(図表3参照)。

【図表3】CFTC統計の投機筋の円ポジション(2015年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

代表的な低金利通貨である円は、基本的には「買われにくい」、「売られやすい」傾向があります。CFTC統計の投機筋のポジションを参考にすると、買い越しは5万枚を超えると「行き過ぎ」懸念が強まるのに対し、売り越しは10万枚以上に拡大することもとくに珍しくありませんでした。その観点からすると、上述のようにまだ円の「売られ過ぎ」を懸念する状況ではなさそうです。

では、米ドル買い・円売りはさらに続き、一気に4月相場で111~112円といった重要水準も超えていくことになるでしょうか。それを考える上で気になるのが、ここまで米ドル/円の上昇と高い相関関係が続いてきた米金利の動向です(図表4参照)。

【図表4】米ドル/円と日米金利差 (2020年10月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

米金利、10年債利回りの90日MAからのかい離率はプラス40%程度といった具合に、依然として「上がり過ぎ」懸念の極めて強い状況が続いています(図表5参照)。これを見ると、米金利は短期的にはさらなる上昇は限られ、むしろ「上がり過ぎ」の反動で低下する可能性もありそうです。

【図表5】米10年債利回りの90日MAからのかい離率 (2000年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

2日に発表された米3月の雇用統計では、注目されたNFP(非農業部門雇用者数)が事前予想を大きく上回るポジティブ・サプライズとなりました。こういったことを受けて、米金利の「上がり過ぎ」がさらに拡大に向かうのか、それともこのポジティブ・サプライズを受けても米金利の上昇が限られるようなら、いよいよ「上がり過ぎ」修正に伴う米金利の低下が本格化する可能性もあります。

以上のように見ると、米ドル/円が重要水準の111~112円の前で上昇一服となるか、それともさらにこの重要水準すらこのまま突破していくことになるのか、それは米金利の動きが鍵になるのではないでしょうか。

52週MAを長く、大きくブレーク

それにしても、先週も米ドル高・円安傾向が続いたことで、米ドル/円は足元106円程度の52週MAを6週連続といった具合に「長く」、そして5%近くといった具合に「大きく」上回りました(図表6参照)。経験的にこのような動きは一時的ではなく、継続的な上昇トレンドが展開中である可能性が高いといえるものです。

【図表6】米ドル/円と52週MA (2000年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

そうであるなら、かりに上述のように米金利低下に伴う米ドル/円反落ということになっても、それは基本的には上昇トレンドの中での一時的な動きの可能性が高いと考えるのが基本でしょう。

ちなみに、トレンドと逆行する一時的な動きは、経験的には52週MAを「長く」、「大きく」ブレークしない程度にとどまる可能性が高いといえます。米ドル/円の52週MAは足元で106円程度。ということは、米金利の「上がり過ぎ」修正に伴う低下などに連れる形で米ドル/円が反落に向かうとしても、それは106円前後までがせいぜいといった見通しになります。

重要水準の111~112円を前に、米ドル/円上昇も一服、反落に向かうのか、それとも息継ぎもそこそこにこの重要水準すら突破するのか、その鍵を握るのは空前の米金利「上がり過ぎ」の行方ではないでしょうか。