2月28日に香港政府2018年度予算案が発表された。毎年2月末に発表されるのだが、市民の関心は高い。今年の最大のトピックスは、2017年の財政黒字分をどのように2018年度予算で市民に再分配するかである。10年前の2008年度予算で一人6,000香港ドルを上限として税金の還付を実行し喝采を浴びた事が市民の頭に残っているからだろう。残念ながら2018年度予算では、税金の還付ではなく3万香港ドル(約40万円 )を上限とする大幅な減税処置が採られたことが注目点である。香港財政は、基本的に黒字基調であり、それは香港基本法が財政赤字を原則禁じており、香港政府は、財政収支の黒字を維持する為に限りない努力を重ね、結果として香港財政基金(黒字余剰金の合計)は1兆香港ドル(約13.5兆円)を超え、2年間財政収入ゼロでもやっていける豊かな都市'香港'なのである。日本の財政当局からみれば、夢のような話が香港では実現している。

香港の財政規模は、2018年度予算では6,000億香港ドル(約8兆円)を超えて、歳出が5,580億香港ドルと今年も余剰資金が発生する見込みである。日本の国家財政に比べれば10%程度の規模だが、人口対比で香港は日本の人口の6%程度なので、人口一人当たり予算規模として大きい政府である。都市財政で見ても人口1,000万人の東京都一般予算が7兆円強なので人口720万人の香港は豊かな財政事情といえるかもしれない。

歳入を見てみると、個人所得税も法人税も15-17%前後と税率において低税率地域に分類される香港が、なぜそんな豊かな税収がと素朴な疑問が沸いてくるが、そこは香港ならではの秘策が隠されている。歳入の20%にあたる不動産関連収入が東京都にはない特色である。つまり東京都より小さい面積の香港の土地は、基本的には香港政府名義である為、土地リース料金1,210億香港ドル(1兆6千億円程度)が香港政庁に転がり込んでくる仕組みになっている。

歳出項目を見てみるとこれも例年最大歳出項目の常連の一つである教育関連支出が全体の20%程度を占めており、いかに香港が未来への投資を大切にしているかがわかる。更に香港はバイオ・AI・スマートシティ・フィンテックを4大注力分野としているところに、今日の為の歳出より明日の為の歳出にいかに力を入れているかが感じられる。日本より高齢化が進む香港。社会福祉支出に喘ぐ日本の財政に比べて、日本のような重い社会福祉関連出費などに縛られることなく、街を元気にする財政予算を組み立てており、未来が明るくなるように見えてなんだかうれしくなる。そして、豊かな財政基金のバックアップがある。低税率でも仕組みを上手に作り上げると、こんな財政予算を組めるのだという事例を日本に示しているように見える。
香港は、2017年GDP成長率は3.8%、2018年は3-4%が見込まれ、インフレ率も2%を超え、更には財政黒字での大胆なる減税策の発表、日本当局の政策目標である2%インフレ率・財政のプライマリーバランスの達成、成長率の維持など、当年度ですべてクリアしている健康体である。 

香港という街に対して、悲観的な見方をする日本マスメディアを最近時々見かけるが、香港という街。そんなに軟ではない・・・と強く思う日々である。 コラム執筆:Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank (NWB)
世界三大金融市場の一つである香港にて、個人投資家に、「世界水準の資産運用商品」と「日本水準のサービス品質」、個人向け資産運用プラットフォームとしての「安心感」を併せて提供している金融機関。マネックスグループ出資先