10/22にビットコインが今年の最高値を更新した。ブルームバーグのデータによれば、一時、13000ドル(137万円)を超え、昨年のフェイスブックの“リブラ祭り”の高値を上回った(図表1-1)。年初来の上昇率は80%と他の主要な金融資産を大幅に上回っている(図表1-2)。

 
 

昨日来の急上昇は主に米オンライン決済大手ペイパルが暗号資産による決済を開始すると発表したことによる。それ以外にも、新型コロナ対策による“カネ余り”の影響で企業の大口投資や市場参画が相次いでいる。今月に入り、政府デジタル通貨の動きも活発化している。

奇しくも、2017年バブル以降現在に至るまでのビットコインの価格推移は、2013年のミニバブル崩壊後の回復サイクルに酷似している(図表2)。こうしてみると期待を持ちたくなるが、果たして本当に暗号資産の上昇は持続可能なのだろうか。最近の動きを整理しつつ今後の方向性を考える。

 

PayPalが暗号資産業務への参入を発表。それ以外の大手企業も参画

米国時間の21日、オンライン決済サービス大手の米ペイパル・ホールディングスが、一部の暗号資産での決済を可能にすると発表した。第一弾では、ビットコインやイーサリアム、ビットコインキャッシュ、ライトコインなどが対象となる。来年初頭には、約2600万の加盟店で暗号通貨での支払いが可能になる見込みで、順次、グループ傘下のモバイル決済アプリVenmoや、米国以外にもサービスを広げるという。

ペイパルの年間決済取扱高は7120億ドル(75兆円)、120億件に上る(2019年度)。アクティブ口座数は930万口座と、オンライン決済では世界最大手となっているだけに期待が集まっている。

このほかペイパルの競合である米スクエアも、今月、5000万ドル(52億円)相当のビットコインを購入して話題になった。同社は2018年からビットコインでの送金を行っているが、更に暗号資産分野を強化する可能性もあるだろう 。

このほか、企業やファンドの大口投資も相次いでいる。米国のファンド・ストーンリッジは、今月半ばに、1.1億ドル(120億円)相当のビットコインを保有していると報じられた。

こうした流れを受け、米国の機関投資家向け暗号資産ファンドのグレイスケールは、この9月までの累積資産流入額が36億ドルに達するなど、流入が加速していると発表した(図表3)。背景には、明らかに、金融緩和マネーの膨張があると思われる。

 

政府デジタル通貨の動き 

今年の4月から8月にかけて、中国で大規模な政府デジタル通貨(DCEP)の実証実験が行われた。国内数か所で、合計170億円・310万件の決済を完了、人民銀行副総裁はDCEPが“世界で最も広く使われた政府デジタル通貨となった”と述べた。

更に、実証実験の第二弾として、先週末、抽選で選んだ5万人に対し1人200元のデジタル人民元(約3150円)を配り、3,389の指定店舗で使ってもらうと発表した。

こうした中国の動きに対し、先進諸国が牽制を強めている印象だ。最近、政府デジタル通貨の研究加速や実証実験の計画が発表されている (図表4)。

 

例えば、10/19に行われたIMFの会合で、パウエル米FRB議長は「デジタル通貨を最先端で研究する」と発言した。これまで、米国は政府デジタル通貨に対しては若干消極的と見られていた。既に、世界の基軸通貨であることから、デジタル通貨をあえて発行する必要は薄い。発行量が管理しにくくなる可能性があるような新システムの導入は望ましくないという考え方もある。しかし、それでも、研究はしておくべきということが今回明示された。

特に、今後民主党政権が誕生した場合、こうした政府デジタル通貨の議論が活発化する可能性がある。民主党は、銀行口座を持てない低所得者層にも決済の仕組みを提供する必要があるとしている。政府主導の新しいデジタル口座の道が開かれる可能性もある。

一方、共和党も全く無関心というわけではない。コロナ禍で露呈された銀行口座中心の金融システムの脆弱性の議論から、民間主導のデジタル口座を後押しする可能性はある。

日銀も、10/9に、「来年度の早い時期に、政府デジタル通貨の実証実験を行う」と発表した。今年の7月の政府の骨太方針に、デジタル通貨を検討するという方向性が盛り込まれたことが発端である。その後、「デジタル通貨研究グループ」という組織が日銀の決済機構局の中に設置され、検討が続けられていた模様である。

一方、10/13のG7の共同声明では、デジタル通貨の導入には、法定通貨と同じ「透明性、法の順守、ガバナンス」が必要とされた。このため、研究を加速したり、実証実験をスタートする国が増えても、多くの国ではまだ実用までには距離があるだろう。

しかし、中長期的には、国民のニーズや国際的な動向次第では、政府デジタル通貨が実用に向かう可能性も十分ありうるだろう。今回のパンデミックのように、中央機関による計画経済が必要になると、デジタル通貨の効率性が発揮される。例えば、今年ノーベル平和賞を取ったWFP(国連世界食糧計画)は、難民支援等に電子マネーを使っている。配給したい品目ごとにウォレットを分けて配給するなど、安全かつ早く適切な支援を行うことができるためだ。その他、社会全体の効率性向上や、マイナス金利の浸透が容易になることなどは、デジタル通貨の周知のメリットである。

今後の動向

こうした、金融緩和による投資の増加や、利用機会の拡大、政府デジタル通貨の導入などは今後どの程度暗号資産市場の押し上げ要因になるのか。

これらのうち、政府デジタル通貨は、発行されたとしても既存の暗号資産とは直接関係しない。しかし、通貨がデジタル化すれば、その投資先としてデジタルな通貨に向かう心理的なハードルは低下するだろう。

ペイパルでの決済利用については、果たして個人が値動きの激しい暗号資産を手段に選ぶか、という疑問は残る。しかし、世界最大手が暗号資産を決済手段に採用するということは大きな意味を持つ。他の決済プラットフォームも、競争上、暗号資産サービスの検討を迫られる可能性がある。

更に、金融緩和による投資資金の流入は、当面鉄板のプラス要因だ。我々は、世界の金利は、総じて低下に向かわざるを得ず、まだ政策金利がプラス圏にある米国や英国も早晩マイナス金利に向かうと考えている。こうなると、ますます、金利は生まない乍らボラティリティが高い暗号資産への投資が刺激される可能性が高い。

実は、暗号資産業界には、こうした動きの裏側で、いくつかのマイナス要因も発生している。例えば、大手暗号資産取引所OKExは、10/16にすべての暗号資産の出金を停止した。同社の取引に必要な秘密鍵の管理者が当局の調査を 受けているためとしている。この影響で、21日には、他の暗号資産取引所DragonExも出入金を一時停止すると発表した 。

しかし、市場センチメントは現在、ポジティブなイベントに圧倒的に反応している。前掲図表2の通り、バブル崩壊の記憶が薄れつつあるタイミングであり、むしろ、上昇の恩恵の記憶が支配的になってきたとも考えられる。

市場が押し戻される要素としては、大幅な規制税制強化や超大規模なハッキングなどがあるだろう。しかし、前者は既に相当程度織り込まれており、後者については以前よりは各取引所で対策が強化されている。少額のメジャー通貨(例えばビットコイン、イーサリアム、11月にハードフォークを控えたビットコインキャッシュ等)への投資は十分検討に値するだろう。