様々な不動産家賃を収益ベースとし、税制上の優遇を受けているため、安定的かつ比較的高利回りの分配を続けている日本の不動産投資信託(J-REIT)。個人投資家にも注目されているJ-REITでは投資単位を下げるための分割が継続的に行われるなど、投資しやすい環境の整備が進められてきました。地価の上昇や家賃の増加傾向、それに伴う分配金の上昇などもあり、J-REITの代表的な指数である東証REIT指数は2019年末にはリーマンショック以来の高値となっていました。

物件の種類・資産クラスによって異なる影響

しかし、2020年初からの株価の下落局面でJ-REITは大きく値を下げ、3月にはREIT指数が1,138ポイントと、2019年10月高値の2,262ポイントからほぼ半値にまで暴落しました。新型コロナウイルス感染拡大が景気に悪影響をもたらし、景気悪化は地価・賃料にも影響を及ぼすため、REIT指数の下落はやむを得ない状況と言えるかもしれません。しかし、REITは様々な物件の種類、資産クラスに投資を行っており、種類によってその影響は様々でした。どの種類がどのような影響を受けたかについて見ていきたいと思います。

各資産クラスの現状

オフィス

REITの保有する代表的な資産クラスです。比較的契約期間が長いこともあり、一気に収益悪化が進んでいるわけではないものの、リモートワークの定着などで大きな悪影響が心配されています。また、景気悪化に伴い、物件の空室率は少しずつ上がってきており、収益においても苦戦しつつあります。代表銘柄、日本ビルファンド(8951)は昨年末比で26%程度下落しています。

商業施設

ショッピングモールなどが中心です。リアルな商業施設は大きな影響を受け、アパレル大手が店舗閉鎖を進めるなど悪影響が広がっています。緊急事態宣言の期間中には営業を見合わせたモールも多く、テナントに対して支援を迫られるファンドもあり、収益も厳しくなっています。代表銘柄、日本リテールファンド(8953)は昨年末比で28%程度下落しています。ただ、3月には58%下落だったため、やや回復基調にあります。

住宅

大型マンションなどに投資をしています。一部の高級物件は別ですが、多くの住宅は需要が安定しており、業績も株価も比較的堅調です。代表銘柄、大和ハウスリート(8984)は昨年末比で7%の下落にとどまっています。

ホテル

今回のコロナ禍で最も影響を受けた資産クラスです。様々なホテルに投資しており、特に多くのJ-REITはホテルからの賃料をホテルの業績と連動するような契約にしており、特に業績が悪化しました。ホテル運営者をJ-REITが支援する形になっていることも多く、ダメージが大きくなっています。代表銘柄、ジャパン・ホテル・リート(8985)は昨年末比で32%の下落となっています。3月には一時70%以上、下落していましたが、感染拡大の抑制や経済政策などの影響でやや持ち直してきています。

物流施設

コロナ禍が追い風になっている数少ない資産クラスです。オンライン通販の流通量の拡大に伴い、倉庫などの物流施設のニーズが高まっており、他の資産クラスの苦戦に伴う避難的なニーズもあってか、株価は上昇基調です。代表銘柄、日本プロロジスリート(3283)は昨年末比で26%上昇しており、上場来の高値圏です。これまでJ-REIT全体の代表銘柄と言えば、オフィスでJ-REIT草創期から上場している日本ビルファンドでしたが、今や日本プロロジスリートの時価総額は日本ビルファンドを抜いてしまいました。

各資産クラスの現状をざっと見てみました。REIT指数全体は、いまだに昨年末比で20%程度安い水準ですが、コロナ禍での高値圏で推移しており、2020年の最安値からはすでに50%以上、上昇しています。

そうしたなか、業界を代表する日本ビルファンドがスポンサーである三井不動産(8801)から大型の物件取得を行い、増資を行うことが注目を集めています。新宿三井ビルと東京駅八重洲南口に面する大型ビルを2000億円強で取得し、増資で1400億円強を調達します。いずれの金額もJ-REITとして過去最高です。

次回はこの取引の詳細のほか、最近のJ-REITの話題を見ていきたいと思います。