2020年10月5日の日本経済新聞で「中国、日本国債買い急増 外貨準備の運用先シフト」という記事を見て、「あぁ、円高の背景には中国の存在があるかもしれない」と4月以降の米ドル/円相場の円高の謎が解けたような思いがしました。
7月10日にはブルームバーグが「GPIFの外債投資余地が株高でさらに拡大、7兆円規模との試算も」という記事を掲載しており、円安期待を高めた向きもあったのですが、その後、なかなか円安には進んでいません。
日経平均が上昇すれば米ドル/円も上昇するという株高円安の相関関係が崩れてきていることも市場関係者らの話題となっていました。
市場関係者らがその動向を注視する運用者の存在
巨額の資金を運用していることから、その動向がマーケットを動かす存在として認知されているものに、「世界の年金基金」が挙げられます。そのトップが年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)、日本の年金基金です。
運用総額は2020年第1四半期で162兆円。ちなみに2020年の当初国家予算は102兆円ですから国家予算より巨額の資金を運用する「世界最大の機関投資家」と言えるでしょう。それに続くのがノルウェー政府年金基金で2019年末の運用残高は118兆円ほどです。
このような巨額の資金を運用する年金基金の存在は、株、債券、為替とあらゆる市場に大きな影響を及ぼしています。
GPIFは2020年外債投資を増やしていると見られる
では、この世界最大の年金基金であるGPIFが足元でどのような運用をしているのでしょうか。
GPIFは約5年半ぶりにポートフォリオを見直し、超低金利が続く日本国債の目標値を10%引き下げ、外国債券の保有比率目標を10%引き上げました。先述のブルームバーグの記事では、「為替ヘッジなし外債の構成比は6月末に20.9%に低下し、目標値を満たす保有額との差は7兆円弱に開いたもようだ。」とあり、外国債(主に米国債)への投資余力が7兆円程度あるとの試算を示しました。
それだけの金額の日本円売り、米ドル買いが出る可能性があると見られることから、円安ドル高を予想する向きも多くありました。しかし、現実には米ドル/円相場はジリジリと下落が続いており、円安ドル高とはなっていません。
この間、日経平均は上昇基調を崩しておらず、株と逆相関で円高となっていく米ドル/円相場をいぶかしむ向きも多かった印象です。
巨額の資金を運用する中国の外貨準備
そこで出てきたのが、今回の中国の外貨準備です。2020年8月末現在で約335兆円にもなる中国人民銀行(中央銀行)の外準もまた世界のマーケットに与える影響は甚大です。
GPIFの2倍の規模の資金をどのように運用しているのでしょうか。
その詳細は非公表であり、他国のデーターをもとに推測するしかないのが実情で、今回の記事も財務省と日銀の統計から算出されてものですが、なんと4~7月の日本国債購入額が1.4兆円と2019年同期の3.6倍にも急増していたことが明らかになりました。
先述の日本経済新聞の記事によると「巨額のドルを外貨準備で抱え込む中国が運用先を日本国債にも振り向けている」とのこと。
その要因について記事では「ドル建て日本国債の利回りが米国債の利回りを超えたため」とされており、米国債から「ドル建て日本国債」へのシフトであるため、為替市場へのインパクトはないと見られます。
しかし、このようなオペレーションだけでなく中国が米ドル資産を減らすオペレーションの中で実際に円買いを行っている可能性も否定できません。この中国の外貨準備の存在がGPIFの外債投資とぶつかっていることが、円高をもたらしている大きな原因ではないかと私は見ています。
為替を動かす材料は多岐に渡りますが、ヘッジファンドなどの通貨先物市場のポジションは長期保有が目的ではないため、短期に反対売買されます。
年金基金や中国の外貨準備もまた、将来的にポートフォリオの見直しによって組み替えられることも考えられますが、先物市場のような短期取引ではなく、長期的な運用です。
つまり、これがトレンドとなると長期化しますので、やはり米ドル/円の上値はしばらく重い状況が続くのではないかと思われます。