◆「暑さ寒さも彼岸まで」とは本当によく言ったものである。秋分を過ぎたら、ついこの前までの残暑が嘘のように涼しい日々が続いている。いよいよ秋本番。旅行やレジャーには最適な季節だ。10月1日からは東京を発着とするGo Toトラベルも始まる。東京都は都民の旅行に5千円の上乗せ補助を出す。メディアは、いかにお得に旅ができるかを競うように報じている。
◆せっかくのキャンペーンだから盛り上がるのは結構だが、人出を増やして感染が拡大しないか。誰もが懸念するところだろう。観光業を救済する政策なら、いっそ業者に支援金を配るだけにすればいいのでは。しかし、それでは納得しないだろう。お金の出し手=国民(政府のカネでも結局は国民のカネである)も、お金を受け取る方も。サービスを提供してその対価としてお金を受け取りたいはずだ。
◆新型コロナウイルスの影響で仕事を失った人は全国で6万人を超えたという。これからの時代、「自ら働いて収入を得る」ということがますます貴重になるだろう。そんななか竹中平蔵東洋大学教授が「毎月7万円のベーシックインカム(BI)」をテレビ番組で唱えて話題になっている。韓国でもBIの導入論が高まっている。韓国政府が新型コロナウイルス対策として全国民に支援金を支給したことが、議論を活発化させる呼び水となったというが、それなら我が国も同様だろう。
◆菅政権を評して「新自由主義(ネオリベラリズム)」だという声がある。めざす国家像として「自助、共助、公助」と示したからだ。まず自助 - 自分で頑張る。それがだめなら共助 - 地域社会等コミュニティーで助け合う。公助 - 政府のセーフティーネットはラストリゾートだというわけだ。だから支援金の一律ばらまきではなくGo Toなのだろう。行き先は消費者に選ばせる。観光業者もお客様に来てもらうために知恵を絞りサービスを競う。政府はカネは用意するが、それは自助 - 自分たちで頑張った者が多く受け取れる仕組みだ。
◆菅政権の肝いり政策がデジタル庁の創設だ。周回遅れの日本のデジタル化が推進される期待はある。だがこれもGo Toと同じで懸念もある。世の中がデジタル化するというのは、これまで人手をかけてやっていたアナログの仕事が機械に置き換わるということである。何年も前から言われていた「機械に人間の仕事が奪われる」状況が一気に進む。仕事を奪われた人をどう救う?「自助、共助、公助」の順番で良いのか。コロナの渦中、新自由主義(ネオリベ)の新政権が樹立した一方でBIの議論はますます熱くなる。一見矛盾するようだが、いや、むしろ当然の成り行きか。