前回コラムで、米ドル/円について「当面は「89日移動平均線(89日線)をクリアに上抜けるかどうか」という点と「(一目均衡表の)日足の遅行線が日々線を明確に上抜けるかどうか」という点に注目しておくことが重要」と述べました。

これは、場合により89日線が当面の上値抵抗になり得るという意味も含んだ記述でしたが、案の定、米ドル/円は同線に押し戻されるような格好で一旦下落し、結果、日足の遅行線も日々線の“壁”に行く手を阻まれるような格好となりました(下図参照)。

【図表】米ドル/円(日足)3ヶ月
出所:著者作成

その後、米ドル/円は一時105.10円処まで下値を試しに行くこととなりますが、先週(8月24日~28日)は週初から徐々に値を戻す展開となり、8月28日(金)には再び89日線が位置する107円手前の水準まで上値を試す場面が一時的にもありました。

これは、同期間に米10年債利回りがジワジワと上昇したことが一因で、8月27日には同利回りが一時0.75%台まで上昇する場面も垣間見られています。

FRBの新指針発表で米株価は強気の展開に

8月27日の米債利回りの上昇は、やはり米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長がジャクソンホール会議で講演し、今後の新たな金融政策の枠組みについて「景気低迷期にあってはインフレ率が一時的に2%を超えても、暫くそれを容認する」との指針を明らかにしたことに大いに関わるものと見られます。

この発言はFRBが低金利状態を長期化させる意向を示すものでしたが、そのような方針が示されることは大方事前に予想され、すでに相場に織り込まれていたことから、むしろ一旦は「材料出尽くし」となって米債市場では「セル・ザ・ファクト(事実で売り)」の反応が見られたわけです。

今回のFRBによる政策の枠組みの見直しは、少なくとも米株価にとって大きな支援材料となるものであり、実際に先週8月27、28日の米株価は総じて強気の展開となりました。

その結果、市場にリスクオンのムードが拡がったことで、8月28日の東京市場でも昼過ぎぐらいまでは円売り優勢の展開が続いていました。ただし、FRBが低金利を長期化させる方針としている以上、当面の米ドルの上値はどうしても限られやすくなるということも心得ておく必要があると思われます。

首相の辞任による相場への影響

既知のとおり、8月28日の午後2時過ぎには安倍首相の辞任の意向が報道され、それを受けて直ちに日本株は一時的にも急落、連れて米ドル/円、クロス円も大幅な下げに見舞われる場面がありました。むろん、これはアルゴリズム取引の機械的な売買が引き起こした一時的な現象という部分も大きいわけですが、やはり一国のトップによる突然の辞任表明で市場全体が動揺の色を隠せなかったという側面もあるでしょう。

とは言え、首相辞任を巡る騒動から暫しの時間が経過した今、大方の市場関係者は「今後の経済・金融政策方針に大きな変更はない」との見方で一致している模様です。次期首相が前政権の政策方針を踏襲することは間違いないとの見通しで、日銀の黒田総裁も2023年まで任期を残しています。よって、まずは週明け(8月31日)の東京マーケットの動向に要注目です。クロス円は全般に一旦下げ渋り、ある程度の戻りを試す公算が大きいと個人的には見ています。

次期首相の指名に関しても、さほどのサプライズはないものと考えられ、やはり当面の米ドル/円は105-107円処のレンジ内での値動きを今しばらく続けるとの見方が妥当ではないかと考えます。

豪ドル/円は依然強気の展開

また、前回も注目した豪ドル/円については依然強気の展開が続いており、すでに一目均衡表の週足「雲」をクリアに上抜けていることはもとより、週足の遅行線までもが週足「雲」を上抜けるという相当に強気のシグナルが灯っていることを再確認しておきたいと考えます。勢いで78円台へと乗せてきた場合は、しばらく78.00-79.00円あたりのレンジ内での値動きを続けると見ています。

ユーロ/米ドルは当面レンジ内での動きが続く見通し

なお、ユーロ/米ドルに関しては1.2000ドル処の節目が上値抵抗として意識されやすいという事情に変わりはなく、さらに足下では2008年7月高値や2014年5月高値などを結ぶ長期レジスタンスラインの存在が意識されやすいと思われます。月足の「雲」上限も右腕尾間部として重くのしかかりやすく、当面は1.8400ドル処を軸とした1.1740-1.1940ドルのレンジ内での動きが続くものと思われます。