手数料が下がっても個人投資家の利益が増えないケース
コロナショックをきっかけに投資を新たに始めた人たちが増えています。アメリカではロビンフッダーと呼ばれる若年層の個人投資家がマーケットを動かす大きな勢力になりつつあるようです。
日本でも、スマホ証券と呼ばれるスマートフォンだけで取引できる個人投資家向けの証券会社が注目されています。
マネックスグループには、10年以上前にマネックス・ユニバーシティと呼ばれる組織ができました。初代の代表は私が務め、個人投資家への投資教育を目的に設立されました。収益的にはあまりメリットのない、このような事業を始めたのには理由がありました。
マネックス証券は1999年の株式売買手数料自由化のタイミングで証券ビジネスを開始したネット証券です。従来の固定手数料の10分の1という低コストが個人投資家に高く評価され、口座数は順調に伸びていきました。
手数料が下がれば、投資家にそのメリットが還元されます。ネット証券の台頭により日本の個人投資家は収益を大きく改善できると予想しましたが、必ずしもその思惑どおりではありませんでした。
インターネットで24時間取引できる利便性が、短期売買を助長し、感情的な取引によって、資産を減らす個人投資家が発生するケースも散見されるようになったのです。
車に例えて言えば、今まで乗っていた普通の車が、高性能のスーパーカーに変わってしまい、免許を持たずに運転しているようなものです。スピードを出し過ぎてしまい、自分でコントロールしきれない取引をしてしまったようです。
そこで、個人投資家が資産運用で着実に利益を上げるためには「お金の教習所」が必要と考え、投資の基本を教える事業を始めることにしたのです。投資教育によって個人投資家の収益が改善すれば、長期的にはサービスを提供している証券会社にもメリットがあるという発想です。
最近のスマホ証券の広がりは、個人投資家層の裾野を広げる意味では有意義といえます。しかし、個人投資家が知識を持たずに短期の利益を求めて、感情的に売買をするのは、昔のネット証券勃興期に似たものを感じます。
コロナショックで2020年3月に株価は底打ちしており、この時期から投資を始めた人たちは、ほとんどが利益を得ているのではないかと考えられます。
しかし、上昇相場で投資のリスクを忘れ、過剰な投資に手を出してしまうと、最終的に大きな損失を出しかねません。
新規の個人投資家はまず投資の基本を学ぼう
投資を始めたばかりの人は、値上がりする銘柄ばかりを追い求めるのは、やめた方が良いと思います。
それよりも、投資の基本を学ぶことの方が圧倒的に重要です。例えば、リスクとリターンの関係、インデックス運用とアクティブ運用の違い、投資対象と時間という「2つの分散」、感情的な投資をしないための工夫、NISAやiDeCoといった税制優遇制度の活用・・・などです。
このような必要最低限の知識を得た上で、投資対象をしっかり選び、リスクコントロールをすることで、長期で資産を形成していくことが可能になります。
しかし、残念ながら失敗するまでこのような投資の基本の重要性に気が付かない個人投資家の方もいらっしゃるかもしれません。
釣れた魚をもらうのではなく、釣り方を学ぶ
専門家に儲かる銘柄を教えてもらって利益をあげるのは、釣りに例えれば、釣れた魚をもらうようなものです。魚をくれる人がいなくなれば、魚はもう手に入りません。
しかし、魚をもらうのではなく、魚の釣り方を教えてもらえば、いつでも自分で手に入れられるようになるのです。
資産運用も自分で投資の方法をマスターすれば、専門家の情報に頼らなくても資産形成をすることができます。そしてその方が長期で安定したリターンを実現することができるのです。
個人投資家に必要なのは投資情報よりも投資教育。これは、今までもこれからも変わらない私の信念です。