マネクリにてご執筆いただいておりましたオフィス・リベルタス 創業者 取締役、大江 英樹 氏が2024年1月1日にご逝去されました。心より哀悼の意を表し、ご冥福をお祈り申し上げます。

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前回、定年後の支出は「日常生活費」、「一時出費と自己実現費」、そして「医療・介護への備え」の3種類に分けることができるという話をした。支出の種類が3つに分けられるのであれば、それらをまかなう財源も3つに分ければ良いのだ。

日常生活費には公的年金を

まず1つ目は公的年金。この金額は60歳になった時点でほぼ決まっており、増えることも減ることもあまりない。そのため、最もコントロールしやすい支出である「日常生活費」は、公的年金の範囲内でまかなえばいいのだ。

現在、公的年金のモデル年金額は40年間働いてその間、配偶者が専業主婦であったという前提で、月額22万1,504円である(厚生労働省 平成31年度)※1。実際には共働きの人も多いので、この金額はもう少し増えるだろう。定年後、8年間生活をした筆者の家計簿によれば、夫婦二人だけの場合の毎月の生活費は多い時で24万円、少ない時で21万円なので、何とかこの範囲に収めることは可能だろう。

自己実現費には収入を

次に、「一時出費と自己実現費」について。60歳以降も働き続けることで稼いだ収入でまかなうべきである。現在、ほとんどの会社で65歳まで働き続けることができるし、今後はその年齢も70歳まで延びる可能性が高い。実際、現在60から64歳で働いている人の割合は81.1%、65歳から69歳で働いている人も57.2%いる※2。60歳以降は生活費を稼ぐために働くのではなく、遊ぶお金を捻出するために働くのだ。

仮に月10万円の収入でも年間120万円になる。これだけあればたまに美味しいフレンチを食べられるし、温泉旅行や場合によっては海外旅行だって行ける金額だろう。従って、安易に退職金を取り崩すのではなく、いつまでも元気で働いて、楽しみを持ちながら暮らすことを目指すべきだろう。

医療・介護費には退職金、貯蓄を

最後の支出項目は「医療・介護」だ。実はこれが一番難しい。なにしろ病気になるか、要介護になるかなど、誰もわからないからだ。つまり一番読めない支出である。だからこそ退職金や自分がそれまでに貯めた預金、iDeCoやNISAなどで運用してきた資産を温存し、いざという時に備えられるようにしておくべきだ。

もちろん金額にもよるが、その全てを温存する必要はないかもしれない。おおよそ必要となる金額を確保しておけば良い。ただ、特に女性の場合、この部分は手厚くしておいた方が良いだろう。なぜなら一般的に女性の方が平均寿命は長い。そのため、結婚していても独身でも、女性のほうが最後一人になる可能性が高い。そして最後に自分の介護が必要になった時に頼れるのはお金しかない。だからこそ安易に取り崩すのではなく、できる限り温存をしておくべきなのだ。

一般的に財産の三分法というのは「預金、有価証券、不動産」と言われるが、これはあくまでも資産を分けて置いておくという考え方を指す。ここで言っているのは、お金の性格とその使途によって三分法を考えておくのが良いということだ。もちろんその割合は人によって異なるだろうし、考え方は様々なので必ずしもこの通りにする必要はない。しかし基本観として、こうした分け方が最も安心できる方法ではないだろうか。

実際に筆者もこの方法を実践している。遊ぶためのお金は稼いだ収入からまかなっているし、退職時にもらった退職金は手をつけず、そのほとんどを株式の長期保有で運用している。もちろん運用方法は人によって様々で、どれぐらいリスクを取れるかによって内容が全く違ってくるのは言うまでもない。筆者はどちらかと言えばリスクテイカーなので、株式での運用が多いが、リスクを取りたくなければ「個人向け国債変動10年」を使うのが良いだろう。

基本は、自分でコントロールできる支出は年金と働いた収入でカバーする。コントロールできない医療と介護はまとまったお金である退職金や自分で蓄えた分を温存しておく。これを基本にすれば良いのではないだろうか。

※1 出所:厚生労働省 平成 31 年度の年金額改定についてお知らせします。年金額は昨年度から 0.1%のプラス改定です
 
※2 出所:総務省統計局 統計トピックスNo121「統計からみた我が国の高齢者」