マネクリにてご執筆いただいておりましたオフィス・リベルタス 創業者 取締役、大江 英樹 氏が2024年1月1日にご逝去されました。心より哀悼の意を表し、ご冥福をお祈り申し上げます。
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退職金の使い道について考えてみよう
昨今、資産形成が終わった後は資産取り崩しが大事とばかりに「いかに運用しながらお金を取り崩していくか」ということを論じることが多くなってきている。確かにお金というものは「貯めたり増やしたりする」のが最終目的ではなく、いかに「こしらえたお金を使って幸せになるか」が大事であるから、貯めろ、増やせばかりではなく、ある程度の年齢になって資産形成が終わった後は、それをいかに取り崩していくかが大事になるというのは理解できる。
しかしながら、理屈は確かにその通りだが、現実を考えるとどうも不安が先に立って、安心して取り崩していいものだろうか?と考える人は多いのではないだろうか。筆者自身、長年勤めた会社を定年退職して8年経つが、やはり心の片隅に一抹の不安があり、それを拭い去ることはなかなか難しい。
その不安の正体は将来の医療・介護の問題である。俗に老後の三大不安と言われるのが「健康・お金・孤独」であるが、中でも多くの人が最大の関心を持つのは健康だろう。なぜなら何をするにしても健康であることがまず重要だからだ。そしてできることなら長患いをせずにポックリ逝きたいというのは誰もが持っている共通の思いだろう。
平均寿命はくせ者
ところがこればかりは何とも言えない。計画的にお金を取り崩すべきだと言うが、では一体何歳までを目処に取り崩せばいいのか?「それは平均寿命を目処に考えるしかない」ということだろうが、実はこの平均寿命というのがくせ者である。厚生労働省の簡易生命表によれば現在男子の平均寿命は81.3歳である。ところが過去30年間、男性の平均寿命は毎年0.18歳ずつ延びてきている。ということは現在50歳の人、仮にAさんとしよう。Aさんが今の平均寿命である81.3歳になった時には、その時点での平均寿命は今よりも約5.6歳延びて86.9歳になっていることになる。つまり平均寿命はどんどん先に逃げていくのだ。
では逃げる平均寿命にAさんが追いつくのはいつになるかと言えば88.4歳となる。さらにもう一つ面白いデータがある。それは同じ年に生まれた男性の50%生存率、すなわち、半分の人が亡くっている年齢は何歳ぐらいなのかというと91.4歳なのである。ひょっとしたらこちらを平均寿命と考えた方がいいかもしれない。これは何を意味しているのだろうか?今の時点での平均寿命は当てにならず、実際にはそれよりも長生きする可能性が高いということだ。したがって今の時点での平均寿命を考えて取り崩していくのが正解かどうかは判断が難しい。
定年後の支出は3種類に区分できる
では、できるだけお金を使わず節約生活を続けるべきなのか、あるいは死ぬまで投資を続けるべきなのか。筆者はそのどちらでもないと考えている。それならば、一体どうすればいいのだろう。その答えを出す前に、定年後に発生する支出とその性格を一度きちんと考えてみよう。筆者の経験から言えば、定年後の支出は大きく分けて3つある。
定年後の支出1:日常生活費
まず一つ目は日常生活費である。これはどちらかと言えばある程度読めるお金だ。
定年後の支出2:一時出費と自己実現費
次に一時出費と自己実現費だ。一時出費は例えば住宅のリフォームだとか自動車の買い換えといった比較的まとまったお金の出費である。自己実現費は趣味や旅行といった楽しいことに使う費用である。これもある程度はコントロール可能だが、せっかくリタイアした後にあまりこういう楽しみに使うお金はケチりたくないのは人情である。
定年後の支出3:医療・介護の費用
そして3つめ、これが全く読めない医療・介護の費用である。
したがって、整理して考えてみると、支出の項目別に今持っているお金、定年の時に入ってくる退職金、そして定年後に受給開始できる年金という財源をどう振り分けていくかを考えれば良いのである。大切なことは支出と収入、そして今持っているお金の性格をよく考えて振り分けることが大切なのである。安易に持っているお金を取り崩せば良い、というわけではないのだ。では、具体的にどうすれば良いかを次回にお話したいと思う。