このレポートのまとめ
1. 外出禁止令が続々と解除
2. 経済のV字回復は望み薄
3. 失業者数は増加、一時的な失業が恒久的な失業となる懸念
4. 株式市場は半値戻しを達成
5. 景気後退に強いセクターオーバーウエイトが得策
米国で続々と外出禁止令が解除
米国の各州で続々と外出禁止令が解除され始めています。解除にあたってはいきなり経済活動を元に戻すのではなく、ソーシャル・ディスタンシング(近くにいる人と距離を置くこと)を念頭に置いて、徐々に戻すことが行われています。
たとえば、レストランはすべての座席を再開させるのではなく、キャパシティの30%くらいを維持しながら営業が始められています。
同様に学校の再開に関しても大部分の学校は休校したままです。託児所も閉まっているところがほとんどです。
すると、再び通勤するとなっても従業員は昼間に子供を預ける場所がありません。そのためなかなか職場には復帰しにくく、外出禁止令解除後も自宅から仕事をする人が多くなっています。
国内線の航空会社は大幅に減便した状態で営業していますが、チェックインから搭乗までに実に4時間もの時間を要します。これは乗客一人ひとりを検査する必要があるからです。そんなに時間がかかるのならZoomで済ませたいと感じる人も多いはずです。
そんなこんなで、外出禁止令解除後の経済活動の再開は順調とは言いがたく、当初期待されたようなV字型の回復はかなり絶望的です。
失業は「一時的」から「恒久化」へ?
いまアメリカでは怒涛の勢いで失業者が増えています。5月14日に発表された最新の新規失業保険申請件数は298万人でした。
外出禁止令が始まった3月21日の週からの失業申請を全て合計すると3,650万人が失業したことになります。
このペースが続くといずれ米国の失業率は20%に届くのではないか?という懸念の声もあがっています。
さらに、年収400万円以下のアメリカ人の間での失業率は、40%に達していると言われます。つまり今回の景気後退は低所得者層にとりわけ厳しいのです。
パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は5月13日にピーターソン経済研究所でスピーチを行いました。そこで、失業者の失業期間が長期化することによって仕事のスキルが低下し、再就職が一層困難になるという悪循環に対し、警鐘を鳴らしました。つまり「一時的」と思われた失業が「恒久化」する懸念があり、タイヘンなことになってしまうのです。
もちろん、米連邦準備制度理事会はできることは全てやっています。しかし今回の危機は単なる金利政策だけでは不十分。強力な財政政策により、失業者や倒産しかけているビジネスを盛り立てることがどうしても必要なのです。
これに関して、すでに議会は累計2.9兆ドルの景気支援策法案を成立させていますが、それでは2ヶ月程度しか経済を支えることしかできません。そのため、いま下院民主党は新たに3兆ドルの景気支援策の策定に入っています。
株式市場の近況
米国の株式市場は3月23日の安値から半値戻しを達成しました。2月19日以降の強烈な下げの半分を取り返すことに成功した点は、マーケットには未だ反発力が残っており、いずれ今年中にも全値戻しも夢ではないと感じさせました。実際、ナスダック総合指数は全値戻しまであと一歩のところへ肉薄しました。
その反面、この戻りはごく一部の大型ハイテク株によって演出されたものであり、多くの銘柄は未だダメージから立ち直れていません。見かけほど、この反発は力強くないのです。
特に航空会社、ホテル、クルーズ船、小売業などは深刻な経営危機に晒されています。それらのセクターは安心して保有することができないので、投資家は消去法で比較的安全なセクターへの傾斜を強めています。
現時点で、今年のS&P500のセクター別売上高成長を見た場合、ヘルスケアや消費安定などの景気後退に強いセクターが優位なことは明らかです。
すると、投資家のスタンスとしては不況下でも業績が落ちにくいそれらのセクターをオーバーウエイトし、景気に左右されやすいセクターをアンダーウエイトするのが得策だと思います。同じことを次の図(図表3)で示せば、いまは「景気が弱い」、「金利が低い」局面だと見てとれます。そのため、図(図表3)の左下、黄緑色に属する銘柄を買っておけば良いでしょう。