伝統的な経済指標が追い付かない大不況

新型コロナウイルスの世界的感染拡大を受け、世界中で感染拡大防止策が採られたことから、凄まじい速さ・規模で景気が悪化しています。

我々総合商社社員は常々世界各国の景気の動きをウォッチしていますが、今回は大いに困りました。なぜなら感染拡大防止策導入により突然景気が悪くなったため、伝統的な月次の経済指標では景気の悪化が反映されにくいうえに公表が遅く、従来型の景気分析が全く通用しなくなってしまったからです。

わかりやすく例を挙げると、仮に3月20日に感染拡大防止策が導入された場合、3月の統計にはその影響は景気の悪化としてほとんど反映されません。しかも3月の統計が公表されるのは、即時ではなく通常4月中旬から下旬となります。そのため、従来の手法では即時に影響を見極めるといった景気分析はしにくいのです。

こうした状況下で用いられる手法として「ナウキャスト」があります。これは日次・週次など「ほぼ今」を捉える経済指標、具体的には電力消費量や公共交通利用者数、レストラン予約件数などを用いる手法です。

ただし、ナウキャストにもいくつか難点があります。第1にナウキャスト用の経済指標が本来経済分析を目的として設計されていないため、その解釈が難しい点です。第2に新興国の場合、ナウキャスト用経済指標そのものが作成・公開されていない場合が多い点です。そして第3に、ナウキャスト用経済指標の多くが無料公開されていない点です。

見るべきはPMI

それでは「解釈が簡単で」「新興国もカバーし」「無料で」かつ公表が早い経済指標は存在するのでしょうか。お忙しい読者の皆様にひとつだけお勧めするとしたら、私はPMIを挙げます。PMIの正式名称は「IHS Markit PMI(Purchasing Managers Index=購買担当者景気指数)」と言います。PMIは毎月、調査対象企業から各種活動につき前月と比べて「高い」「同じ」「低い」をアンケート調査し、それをもとに作成した指数です。

解釈は容易で、PMIは0から100の間で変動し、50は「前月から横ばい」を表します。そしてPMIが50を超える場合は前月比での改善や増加を、50未満の場合は悪化や減少を表します。また同PMIが50から上下に離れるほど、経済活動の上下の変化率が大きいことを示します。

新興国も含めたカバー範囲については、筆者がIHS Markitのホームページで数えたところ2020年4月現在、47カ国についてPMIが作成されています。また、全ての国において同一の方法でデータを収集するため、国際比較も可能です。

さらに、主要国・地域のPMIは当該月の中旬に調査されたものがその月の20日過ぎには速報として発表されるので極めて速報性が高いものになっています。加えて最新データの多くは無料で公開されていることから誰でも利用しやすくなっています。

実質GDP成長率との高い相関性

「百聞は一見に如かず」ということで、実際に米国の実質GDP成長率とPMI(米国サービス業)の推移を見てみましょう(図表1)。表から、相関性の高さがお分かりいただけるかと思います。

【図表 1】米国の実質GDP成長率(前期比年率%)とIHS Markit PMI(米国サービス業)の推移
出所:IHS Markit PMIのデータを基に丸紅研究所作成

そのうえ、PMIは速報性が高いため、既に2020年第1四半期のデータが出揃っており、このことから2020年第1四半期の米国の実質GDP成長率もある程度予測することができます(かなりひどい数字になりそうです)。

我々は足元の不況が今後「L字型」の経路を辿るのではないか、と予想しています。そしてここでご説明したPMIなどを用いて、現在は「L」の縦棒、つまり景気がどこまで落ち込むのか、景気の底を探ることに集中しています。

先週4月23日から24日にかけて日本・米国・ユーロ圏・英国の4月のPMI(速報)が発表されましたが、いずれも前月比大幅な下落が続いていました。2020年4月現在、世界経済は未だ底に至らず、というのが我々の見解です。

 

コラム執筆:榎本裕洋/丸紅株式会社 丸紅経済研究所